対蹠たいしょ)” の例文
この和讃を読んでいると、人世を渡るにつたない人の深い苦悩が浮び上ってくるようである。僕は現代人を対蹠たいしょ的に考えてみた。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
その人の年中よっぱらっているような豪放磊落らいらくらしい風と、きょう伸子の前に現れた藤原という少佐の人がらはひとめ見て対蹠たいしょ的であり、普通そうであるように
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
けれども比較に於ける関係からは、詩の主観的精神と対蹠たいしょさるべき、純の客観芸術が考え得られる。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
人はあるいは私を目して、ああいう虚栄の権化の性格のまったく対蹠たいしょ的な妻と結婚したばっかりに、私が自己の生涯を、自ら破滅させてしまったのだというかも知れぬ。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
その点において、十一谷氏の擬古的な表現とは正に対蹠たいしょ的であり、私自身の好みから言えば、横光氏の努力の方が遥かに効果的だと思う。だが氏の表現は、混沌としすぎている。
昭和四年の文壇の概観 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
「そりゃ、太閤に魅力があったからさ。」といつのまにやら機嫌きげんを直して、「人間として、どっちが上か、それはわからない。両方が必死に闘ったのだ。何から何まで対蹠たいしょ的な存在だからな。 ...
(新字新仮名) / 太宰治(著)
御主人の小島市太郎氏は、小母さんとは全然対蹠たいしょ的な純官員さんであった。
この点アミ族の場合とは対蹠たいしょ的だ。寒渓は理蕃りばん政策に一つの解答を与えている。及第点に達しているといってもいい。衣服なども苧麻ちょまを染めて手織りで作っているが、非常にいいものが出来る。
台湾の民芸について (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
故に、一つの主義が勃興すれば、それと対蹠たいしょ的な主義が生起する。かくして、その相剋の間に真理は見出されるのを常とします。しかし、真の殉教者は、そのいずれに於ても、狂信的なるものである。
文化線の低下 (新字新仮名) / 小川未明(著)
元来西洋人は、きわめて主観性の強い国民であり、日本人と正に対蹠たいしょ的な地位に立ってる。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
保の部屋の入口の鴨居にあるメディテーションという貼紙は思い出すたびに伸子の心を暗くし、同時に、保と対蹠たいしょする存在として一家の中にある姉の自分を思わずにはいられなかった。
二つの庭 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
東洋藝術のはらむ未来の文化財は大きくまた拡い。欧米と対蹠たいしょ的なものが沢山あるからである。例えばロダンの「考える人」と、中宮寺ちゅうぐうじや広隆寺の弥勒菩薩みろくぼさつ像とを比べると東西の対比がよく分る。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)