安房上総あわかずさ)” の例文
それですから江戸の悪党なんかは『おれの死ぬときは畳の上じゃあ死なねえ。三尺高い木のそらで、安房上総あわかずさをひと目に見晴らしながら死ぬんだ』
半七捕物帳:52 妖狐伝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
鼓村師は、庭へ出れば、安房上総あわかずさの山脈が、紫青く見えるのを知っているので、ふと、そんなことを言っている。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
隅田河口は年々陸地を拡げて品川沖はほとんど埋れ尽さんとす。されど最新の式にりて第四回の改築を行ひたる東京湾は桟橋くしの歯の如く並びて、林の如き帆檣はんしょう安房上総あわかずさの山を隠したり。
四百年後の東京 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
かつ、衣類調度のたぐい黄金きんの茶釜、蒔絵まきえたらいなどは、おッつけ故郷くにから女房が、大船で一艘いっぱい、両国橋に積込むと、こんな時は、安房上総あわかずさの住人になって饒舌しゃべるから、気のいい差配は、七輪やなべなんぞ
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わたしがこっち側からのぞいて、安房上総あわかずさが見えるといったことなどを、とりとめもなく言って
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)