安居あんご)” の例文
すると、残された実の一つは、初めて本然の姿を取り回したらしく、自らが小さな精霊ででもあるかのやうに、寂然として安居あんごしてゐる。
独楽園 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
建久三年の頃叡山の根本中堂の安居あんごの結願に、誰れを導師にという沙汰のあった時に隆寛がその器量であるという評判であるところが、一方には
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その上、我らを許して安居あんごを続けられようとも、現在親の敵を眼前に置いては、所詮は悟道の妨げじゃ。妄執の源じゃ。心事の了畢りょうひつなどは思いも及ばぬことじゃ。
仇討三態 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
平和にかつした頭は、とうてい安んずべからざるところにも、強いて安居あんごせんとするものである。
水害雑録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
武者なんか、人生の正面側に向ってはいるが、この頃は大分お安居あんごで、のんきに眺めて「フムなかなかよい」という工合。動かしていない、動かされていない、そういう猛烈なところがないのです。
安居あんごのお妨げ、何とぞおゆるしくださりませ。」
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
金の座に安居あんごしたまへマアムウド。
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
安居あんごとは石あれば腰おろすこと
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
俳諧の仏千句の安居あんごかな
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
この拳骨和尚がまだ若い時分に、越前の永平寺に安居あんごしていました。その時にある夜、和尚はいたずらをしました。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
挂塔けいとうゆるされたのが、去年の霜月であったから、安居あんごはまだ半年に及んだばかりであったけれども、惟念の念頭からは、諸々もろもろの妄念が、洗わるるごとくに消えて行った。
仇討三態 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
私達の魂がひとり空堂に安居あんごして、思惟の三昧に耽るとか、または宇宙の霊や艸木の精と黙語点頭するとかいつたやうな、何かしら秘密なものを羽含はぐくまうとする場合には
独楽園 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
彼は、薪束の中の太い棒を見ていると、それを真向に振りかざして、敵の坊主頭を叩いてやりたかった。まだ、一年と安居あんごをしていない彼の道心は、ともすれば崩れかけた。
仇討三態 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ささやかな安居あんごの地を求めて、そこへ飛花落葉を積み重ね、正身しょうじんの座を構えると共に、心神をすまして音なしの音を聞かんとすることが、この法師の早天暁の欠かさぬつとめ
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)