大風呂敷おおぶろしき)” の例文
けだし直接民衆の福利に即した政治家は地味であり、大風呂敷おおぶろしきの咢堂はそういう辛抱もできないばかりか、その実際の才能もなかった。
咢堂小論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
いつも饒舌じょうぜつ大風呂敷おおぶろしきを広げる古来名高い典型にたいして、北方のあらゆる人々の心のうちに潜んでる、本能的な反感の古い根があるのだった。
すると彼の癇癪かんしゃくが細君の耳に空威張からいばりをする人の言葉のように響いた。細君は「手前味噌」の四字を「大風呂敷おおぶろしき」の四字に訂正するに過ぎなかった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
新聞屋の種取たねとりにと尋来たずねきたるに逢ひてもその身丈夫にて人の顔さへ見れば臆面おくめんなく大風呂敷おおぶろしきひろぐる勇気あらば願うてもなき自慢話の相手たるべきに
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
服紗はきぬの美しい小さなもの、一方にはそまつな大風呂敷おおぶろしきもあって、物を包むだけにしか使わぬが、服紗には物を包む以外のいろいろの使いみちがあった。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
萌黄もえぎ唐草からくさ模様の大風呂敷おおぶろしきに包まれた蒲団ふとんといったようなものを、庸三の頼みつけの車屋をやとって運びこむと、葉子も子供たちを引き連れて、隣の下宿を引き揚げて行った。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
飛騨風な背板せいた背子せいごともいう)を背中に負い、その上に行李こうり大風呂敷おおぶろしきとを載せていたが、何しろ半蔵の荷物はほとんど書物ばかりで重かったから、けわしい山坂にかかるたびに力を足に入れ
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
わたしは朝寝坊夢楽という落語家の弟子となり夢之助と名乗って前座ぜんざをつとめ、毎月師匠の持席もちせきの変るごとに、引幕を萌黄もえぎ大風呂敷おおぶろしきに包んで背負って歩いた。
梅雨晴 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
こうしてだんだんに荷繩を倹約した最後の形が、大風呂敷おおぶろしきというものであった。これだけはまだ農民はもちいないが、村にはいってくる商人にはこれを利用する者が多い。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)