大谷石おおやいし)” の例文
俗に、琵琶橋びわばしという江戸川上水の石橋をわたって、だらだら坂の中腹に見える大谷石おおやいし苔崩こけくずれした石段を七、八段のぼると、その上だ。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
次には建築の様式を定め、日本の伝統を活かし、また大谷石おおやいしを材料に多く取り入れることを計った。かくして工を起し基礎が置かれたのは昭和十年十月である。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
焼あとのまだ夏草のむらがっている中へはいってゆき、乱雑に一つ所に集めてある大谷石おおやいしの一つに腰を下した。野村の手紙をみることで、度胸ができたのか涙はもう納った。
妻の座 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
たね子は紋服もんぷくを着た夫を前に狭い階段を登りながら、大谷石おおやいし煉瓦れんがを用いた内部に何か無気味ぶきみに近いものを感じた。のみならず壁を伝わって走る、大きい一匹の鼠さえ感じた。
たね子の憂鬱 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そして積んである石材を抱えあげ、石垣に添って河の中へ落し入れた、一尺角に長さ三尺あまりの大谷石おおやいしだった、殆んど重さを感ずる暇もなく、およそ十五六も同じ場所へ沈めた。
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
手燭も持たず、裏梯子うらばしごを降りる。け縁を渡る。大谷石おおやいしの段を三つ踏む。あつい欅戸けやきどががらがらと開いた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宇都宮近くに大谷おおやという土地があります。いわゆる「大谷石おおやいし」の産地で、遠く弘仁こうにん時代にその石で刻んだ仏像が今も残っております。同じ石でその地方では見事な屋根をふきます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
伝公は少し居場所をかえて、大谷石おおやいしを二ツ重ねた上へ、悠々と腰を下ろした。
醤油仏 (新字新仮名) / 吉川英治(著)