堪能かんのう)” の例文
主人はまた書斎から飛び出してこの君子流の言葉にもっとも堪能かんのうなる一人をつらまえて、なぜここへ這入るかと詰問したら
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
競争者におくれずすすまず、ひまだにあらば一躍して乗っ越さんと、にらみ合いつつ推し行くさまは、この道堪能かんのうの達者と覚しく、いと頼もしく見えたりき。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかも和歌までも堪能かんのうで、男ぶりは何様どうだったか、ひょろりとして丈高く、さし肩であったと云われるから、ポッチャリとした御公卿おくげさんだちの好い男子おとこでは無かったろうと思われる。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
古学というものもまだ伊那の谷にはなかったころに行商しながら道を伝えたという松沢義章まつざわよしあき、和歌や能楽に堪能かんのうなところからそれを諸人に教えながら古学をひろめたという甲府生まれの岩崎長世
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
律師りし堪能かんのう
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
中年の人の嫉妬を見た事のない男は、いくら詩人でも文士でも致し方がない。小野さんは文字に堪能かんのうなる文学者である。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
行きたいところへ行って聞きたい話を聞いて、舌を出し尻尾しっぽって、ひげをぴんと立てて悠々ゆうゆうと帰るのみである。ことに吾輩はこの道に掛けては日本一の堪能かんのうである。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)