埃立ほこりだ)” の例文
工事場はいちめんに埃立ほこりだって、石を運んだり土を起したりする雇い人足や足軽たちの群が汗まみれになって右往左往していた。
薯粥 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
口々にいい交わしては、争い走ってゆく人々の足に、乾ききった十二月の昼は、馬糞色に埃立ほこりだッて、もう両側はたいへんな見物人であった。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは埃立ほこりだった、寒い東京の街路を思わせた。けれども部屋へやの中は暖かだった。葉子は部屋の中が暖かなのか寒いのかさえわからなかった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
北ぐにの春はおそく来て早く去る、お城の桜が散ると野も山もいっぺんに青みはじめ、町なかの道は乾いて、少しの風にも埃立ほこりだつようになる。
ひやめし物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
帰る途中でなんども立停り、白く乾いて埃立ほこりだった道のおもてを眺めながら、彼はふと無意識に頭を振ったり、思い惑うように溜息ためいきをついたりした。
つばくろ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
乾いて埃立ほこりだった道の上にぎらぎらと傾いた日光が照返している、彼は辱しめられた無念さに顔をゆがめ、強く下唇をみながらまっ直に歩いてゆく
恋の伝七郎 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ひるちょっとまえから風が吹きだして、そう強くはないが、街の中は埃立ほこりだっていた。切通しの辻地蔵のところで待ちあわせ、登り口まではべつべつに歩いた。
扇野 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
乾いた風の吹きわたる埃立ほこりだった道などが眼にうかんだ、そしてそういう風景のなかで、知り人もなく友もない彼が、たったひとり道具箱を肩にして道をゆき
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
気負い立ったり、自分の才能のなさや、小説を書いてゆくことの困難さを思って、息苦しいような感じにおそわれたりしながら、私は埃立ほこりだった陰気な道を歩き続けた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
気負い立ったり、自分の才能のなさや、小説を書いてゆくことの困難さを思って、息苦しいような感じにおそわれたりしながら、私は埃立ほこりだった陰気な道を歩き続けた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
梅雨のあけたあとで、日は暑く、平らな道は埃立ほこりだっていたし、坂にかかると汗だらけになった。——そしてまた、竿と餌箱があるので、断崖をおりるのにも骨が折れた。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)