くわ)” の例文
男は手暴てあらく重太郎を突き退けると、彼は椿の枝を持ったままで地に倒れた。これで黙っている重太郎ではない、椿の枝を口にくわえて又跳ね起きた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
おそらく、枝から風にゆられて、落ちてきたのでしょう。これを見つけた犬は、今にもその子雀をくわえようとします。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
パイプをくわえた赭顔白髪の夫と伴立つれだって贅沢なファー・コオトにジェードの耳飾をつけた老夫人が品のいい英語で店員に何かのグラフィックを運び出させている。
道づれ (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
彼はちょと立ち止まってステッキを左脇ひだりわきはさみ、衣兜かくしに入れた煙草の袋から一本抜いて口にくわえ、それからマッチをだして火を点けながら燃えさしのマッチの棒を地べたに捨て
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
立膝たてひざ煙管きせるくわえながら盛り方が無作法だとか、三杯目にはもういい加減にしておきなさいとか、慳貪けんどんはずかしめるのもいやだったが、病気した時の苛酷かこくな扱い方はことに非人間的であり
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そして其の蟻達はみんな体の割には重すぎる位の、小さな土の粒をくわへて運んでゐる。塚の頂上に着くと、蟻は其の重荷をおろして、塚の勾配を転がし下すのだ。そして、直ぐに又中に下りてゆく。
おふくろの云う通り、今は高粱の刈入れ時で、人間の手足が八本も欲しいという時節に、朝からくわえ煙管で一日ぶらぶらしているのは、あんまり悠長過ぎるではないか。
青蛙神 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
うするのかと見ていると、重太郎はの枝を口にくわえてひらりと飛び降りたが、物をも云わずお葉の前に歩み寄って、二叉の枝を股から二つに引裂ひきさくと、何方どっちの枝にも四五輪の蕾を宿していた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)