問屋場といやば)” の例文
会所ととなえる宿役人の詰め所、それに問屋場といやばなぞの新しい建物は、何よりもまずこの宿場になくてならないものだった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そんなら旅をする人は誰でも問屋場といやばにかゝりそうなものですが、問屋場には公定相場があって負引まけひきが無いのと、問屋場では帳簿に記入する必要上
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
駕籠かごかつぐ人足でも無人のときには吾々われわれ問屋場といやばいって頼んでヤッと出来た処に、アトから例の葵の紋が来ると、出来たその人足を横合から取られて仕舞う。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
駕籠屋は一息入れているのであろうが、註文通り、兵馬には一言の挨拶もなく、やがてまた、同じ駕籠を担ぎ出したところを見ると、問屋場といやばではなかったらしい。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
胸に叫び、心に誓って、鶉坂うずらざかをいッさんに、狂者のごとく駈けて出た江漢老先生。加山耀蔵が、車町の問屋場といやばから曳き出した裸馬の背へ、ひらりっととび乗るがはやいか
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
毎月上半期を半蔵の家の方で、下半期を九太夫くだゆう方で交替に開く問屋場といやばは、ちょうどこちらの順番に当たっていた。吉左衛門の足はその方へ向いた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
道中の問屋場といやばにはそれ/″\に公定相場と云うようなものがあって、人足どもにかつがせる荷物もその目方によって運賃が違うのですが、武家の鎧櫃にかぎって
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
まだ少々早いが、小諸の城下で泊るつもりで町へ入り込むと、早くも二人の姿を見つけた問屋場といやば
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「イヤ大丈夫。実は小諸こもろ立場たてばで念入りに聞いておいたことがある。ちょうど、きのうの朝立ちで、それらしい二人づれが、間違いなくこの街道へ折れたという問屋場といやばの話であった」
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼はその様子を知るために、砂利じゃりで堅めた土間を通って、問屋場といやばの方をしまいかけている栄吉を見に行った。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
まえにも申す通り、武家のよろい櫃の底に色々の物が忍ばせてあることは、問屋場といやばの者もふだんから承知していましたが、紅い水が出るのは意外のことで、それが何であるか鳥渡ちょっと想像が付きません。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
こんなに宿場の様子が案じられ、人のうわさも気にかかって、せがれの留守に問屋場といやばの方まで見回ろうという心を起こしたのは、彼としてもめずらしいことであった。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
これは半蔵の家に付属する問屋場といやばと、半月交替で開く従来のならわしによるのである。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
宿役人の集まる会所も荒れて、屋根き替えのために七百枚ほどの栗板くりいた問屋場といやばのあたりに運ばれるころは、妻籠つまご本陣の寿平次もちょっと日帰りで半蔵親子のところへ大風の見舞いに来た。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
街道付近の村々からは人足差配方の肝煎きもいりが日々両三名ずつ問屋場といやばへ詰め、お定めの人馬二十五人二十五匹以外の不足は全部雇い上げとし、賃銭はその月の十四日から六割増と聞こえているくらいだ。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)