“咬(く)” の例文
その時帝釈一の黄鼠と化して女の裾(すそ)にあり、鉢に繋いだ緒を咬(く)い切り鉢を地に落して仏の無罪を明らかにした(『菩薩処胎経』五)。
蹴られて金眸岸破(がば)と跳起(はねお)き、一声嘷(ほ)えて立上らんとするを、起しもあへず鷲郎が、襟頭(えりがみ)咬(く)はへて引据ゆれば。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
朕が眷属の闇きより闇きに伝ひ行く悪鬼は、人の肺腑に潜み入り、人の心肝骨髄(しんかんこつずゐ)に咬(く)ひ入つて絶えず血にぞ飽く、視よ見よ魔界の通力もて毒火を彼が胸に煽り、紅炎(ぐえん)を此(これ)が眼より迸(はし)らせ
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
「そうだ」と、彼はふたたび自分で自分に誓うように呟(つぶや)いた。「どんなことになろうとも、俺はこの口を開けてはならない。——責めらりょうが、殺さりょうが、たとい舌を咬(く)い切ってでも!」
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
爾(なんじ)よくこそわが父を誑(たぶら)かして、金眸には咬(く)はしたれ。われもまた爾がためには、罪もなきに人間(ひと)に打たれて、太(いた)く足を傷(きずつ)けられたれば、重なる意恨(うらみ)いと深かり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
元より悟空(ごくう)が神通なき身の、まいて酒に酔ひたれば、争(いか)で犬にかなふべき、黒衣は忽ち咬(く)ひ殺されぬ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)