吸盤きゅうばん)” の例文
タコならば、足に吸盤きゅうばんがついているはずですが、こいつの足はのっぺらぼうで、なにもついていません。
電人M (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
蝙蝠こうもりのようなはねの生えた本物の吸血鬼がこの黄昏の中に現われて、その長い吸盤きゅうばんのようなとがった唇でもって、愛弟の血をチュウチュウと吸ったのではあるまいかと思った。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
腹にひれでできたような吸盤きゅうばんがついていて、早瀬はやせに流されぬよう河底の石に吸いついている。
京都のごりの茶漬け (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
ぴたりと吸盤きゅうばんに吸い寄せられるような力で、船底が吸いつけられたかと思うと、丸木舟は、くるりと一廻転して、軌道に乗った車のようにするすると滝壺の裏側にのまれて行って
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
隙間なく層をなして重なりあっているのだが、そうしているうちには、吸盤きゅうばんが触れあい茎棘が刺しかわされてしまうので、その形相ぎょうそうすさまじい噛みあいの歯音は、やがて音のない夢幻となって
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)