向方むかう)” の例文
臺地だいちはたけ黄白くわうはくあひまじつて地勢ちせいまゝになだらかに起伏きふくして鬼怒川きぬがは土手どてちか向方むかうひくくこけてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ちよいと、爪先きをあげると、僕の爪先きは遥か彼方の波がしらを蹴つてゐる! ぴよんと飛びあがると僕のあたまは、遥か向方むかうの、月の光りで斑らになつてゐる松林にとゞいてゐるではないか。
センチメンタル・ドライヴ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
彼の声が腹の底で低かつたので光子には聞えなかつたのかも知れない、光子は此方などには頓着なく(それも仕方がないとは思つたが、)一心に向方むかうを見て居るので、「チエツ」と自分は思つた。
若い作家と蠅 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)