向家むかい)” の例文
それから血に染まった匕首と両手を、向家むかいのペンペン草を生やした屋根の上の青空の方向に高く挙げて力一パイ叫んだ。悲痛な甲高い声で
骸骨の黒穂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
向家むかいの御門の暗い軒燈けんとうの陰から、真白な、怖い顔をさし出して、こちらを見ている母親の顔が見つかった。
人の顔 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
しかもここには江戸ッ子のあらゆる階級を網羅しているので、こちらには立ちん坊、そっちにはくるま屋、隣りには呉服屋の旦那、向家むかいには請負師といった風である。
……その癖、姫草さんはトテモ横暴で、汚れ物や何かもスッカリ私に洗濯おさせになりますし、向家むかいのお蕎麦そば屋の若い人を呼ばれる時にも妾をお使いに遣られます。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼女は向家むかい蕎麦屋そばやにいる活弁上りの出前持を使って電話をかけさせておったものだそうで、白鷹助教授に化けて東京から電話をかけたのもその弁公だったそうである。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
お隣りのお土蔵くらの壁だの、おうちの台所の天井だの、お向家むかいの御門の板だの、梅の木の枝だの、木の葉の影法師だのをヨ——ク見ていると、いろんな人の顔に見えて来てよ。
人の顔 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「ヘエ。アナタ。向家むかいの煙草屋の二階だす。あの二階に下宿して御座った別嬪べっぴんさんなあ!」
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
窓の外を覗くと、往来には夕暗ゆうやみの色がほのかに漂いめている。向家むかいの瓦屋根の上を行く茶色の雲に反映する光りを見ると、太陽は殆んど地平線下に沈みかけているようである。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
向家むかいだの、お隣家となりだの、おうちのお庭にあるゴミクタだの、石ころだのが、いろんな人の顔になって、いくつもいくつも見えて来るの……ソウシテネ……それをヤッパシじいっと見ていると
人の顔 (新字新仮名) / 夢野久作(著)