名聞みやうもん)” の例文
所謂芭蕉の七部集しちぶしふなるものもことごとく門人の著はしたものである。これは芭蕉自身の言葉によれば、名聞みやうもんを好まぬ為だつたらしい。
芭蕉雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
雖然けれども學士の篤學なことは、單に此の小ツぽけな醫學校内ばかりで無く、廣く醫學社會に知れ渡ツた事柄で、學士に少しのやま氣と名聞みやうもん齷齪あくせくするといふ風があツたならば
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
お前が真に神の栄誉の為めに、一切の世間の名聞みやうもんを棄てゝゐるなら、その位の事に逢つたつて、平気でゐられる筈である。お前の心にはまだ世間の驕慢が消え失せずにゐる。
斷えず相見て互に心の底まで知りあはむ程興なき事はあらざるべし。さればおほかたの夫婦はいくばくもあらぬにき果つれども、名聞みやうもんはゞかると人よきとにて、其えにしの絲は猶繋がれたるなり。
父さまが鎌倉においでなされたら、わたし等もうはあるまいものを、名聞みやうもんを好まれぬ職人氣質かたぎとて、この伊豆の山家に隱れずみ、親につれて子供までもひなにそだち、詮事せうこと無しに今の身の上ぢや。
修禅寺物語 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
お隣屋敷浮田中納言様へお移り遊ばされ候はば、第一に世間の名聞みやうもんもよろしく、第二にわたくしどもの命も無事にて、この上の妙案は有之これあるまじく候。
糸女覚え書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
成程。その心もないではなかつた。只世間の名聞みやうもんを求める心に濁されて、打ち消されてゐたのだ。己のやうに現世の名誉を求めてゐる人間の為めには、神も何もない。己はこれから新に神を
して見れば師匠の命終めいしゆうに侍しながら、自分の頭を支配してゐるものは、他門への名聞みやうもん、門弟たちの利害、或は又自分一身の興味打算——皆直接垂死の師匠とは、関係のない事ばかりである。
枯野抄 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)