双手りょうて)” の例文
旧字:雙手
女は顔に双手りょうててのひらを当てていた。それはたしかに泣いているらしかった。彼はもう夕飯ゆうめしのことも忘れてじっとして女の方を見ていた……。
蟇の血 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
父は風呂で火照ほてった顔を双手りょうてでなで上げながら、大きく気息いきを吐き出した。内儀おかみさんは座にたえないほどぎごちない思いをしているらしかった。
親子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
女は顔をあげて、漁師の顔を一眼見て、何も云わずにちらと悲しそうな表情を見せて、双手りょうてひざのあたりに重ねるようにしてお辞儀をした。
月光の下 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ベルセネフの双手りょうてが肩に来た。エルマはまた鞭をふろうとしたがもうその隙がなかった。エルマは抱きすくめられてしまった。彼は大声を出して叫んだ。
警察署長 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
妹はそのあとをじっと見送っていたが、婢の姿が見えなくなると少年のうしろまわって双手りょうてをその肩に軽くかけ、何か小さな声で云いだしたが讓には聞えなかった。
蟇の血 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
女はコップを投げるように置いて、立って来て讓の肩に双手りょうてを軽くかけて押えるようにした。
蟇の血 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
クラネクはエルマをつかんだ手を緩めて、その手を軽く女の双手りょうてにかけた。
警察署長 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
洋服の男はそう云って思いだしたように双手りょうて兜衣かくしに入れた。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)