南京虫ナンキンむし)” の例文
旧字:南京蟲
奈良の旅館は純日本式の家にしたいと云う御牧の注文に、それでなくてもホテルの南京虫ナンキンむしりている彼女は、月日亭つきひていを推挙したりした。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それでも然し眠れない。何処から出てくるか、夜通し虱とのみ南京虫ナンキンむしに責められる。いくらどうしても退治し尽されなかった。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
実はこの時分には、まだ南京虫ナンキンむしを見た事がないんだから、はたしてこれがそうだとは断言出来なかったが——何だか直覚的に南京虫らしいと思った。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あのひとが父の犠牲ぎせいとして、寛容の絶頂にあるに引き替え、おれは一匹の南京虫ナンキンむしに等しいからなんだ。
南京虫ナンキンむしのみに攻められながら、野羊やぎの乳を飲み、アラビア人のコックの料理を食って、一八七二年の十二月十二日から翌年三月中旬にわたる単調な船住いをつづけた。
レーリー卿(Lord Rayleigh) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「やい、ヘッポコ、チョンガリ、南京虫ナンキンむし!」
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
幸子をテラスの明るい所へ引っ張り出して疾患部を仔細しさいに見、ふん、これは蚋やないで、南京虫ナンキンむしやで、と云うのであった。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
南京虫ナンキンむしのように船と船の間をせわしく縫っているランチ、寒々とざわめいている油煙やパンくずや腐った果物の浮いている何か特別な織物のような波……。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
自分もさっそく堕落の稽古けいこを始めた。南京米ナンキンまいも食った。南京虫ナンキンむしにも食われた。町からは毎日毎日ポンびき椋鳥むくどりを引張って来る。子供も毎日連れられてくる。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
僕は南京虫ナンキンむしのようなやつだから、なんのためにすべてがこんな風になっているのか、さっぱりわけがわからずに、深い屈辱を感ずるのだ。つまり、人間自身が悪いのだよ。
不断の白い飯も虫唾むしずが走るように食いたいが、それよりか南京虫ナンキンむしのいないとこ這入はいりたい。三十分でも好いからぐっすり寝て見たい。そのあとでなら腹でも切る。……
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これでもおれは南京虫ナンキンむしじゃなかろうか、あの有害な虫けらでは? なにしろ、カラマゾフだからなあ! ある時、町じゅう総出でピクニックをやったことがあるよ。七台の三頭立橇トロイカで出かけたんだ。