前面むかふ)” の例文
「あら貫一かんいつさん。これぢや切なくて歩けやしない。ああ、前面むかふから人が来てよ」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
付け置かるゝとぞ同じ虫でもかひこの如く人に益し國をとますあればく樹を枯して損を與たふるものありに世はさま/″\なりと獨り歎じて前面むかふを見れば徃來は道惡き爲めに避けてか車の行くを
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
涼しい水の調しらべに耳を洗ひながら、猶三十分程も進んで行くと、前面むかふが思ひもけずにはかに開けて、小山の丘陵のごとく起伏して居る間に、黄稲くわうたうの実れる田、蕎麦の花の白き畑、欝蒼こんもりと茂れる鎮守の森
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)