前刻せんこく)” の例文
立派にいふて除けるつもりなりしも、涙の玉ははらはらはら、ハツト驚くお糸の容子かほに、前刻せんこくより注意しゐたる義父は、これも堪へず張上げたる声を曇らし
心の鬼 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
へい、お客様前刻せんこくは。……本宅でもよろしく申してでござりました。お手廻りのものや、何やかや、いずれ明日お届け申します。一餉ひとかたけほんのお弁当がわり。お茶と、それからふせらっしゃるものばかり。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お糸は我が家ながらしきゐも高くおづおづと伯父の背後うしろに隠れゐたるに、案じるよりは生むが易く、庄太郎は前刻せんこくの気色どこへやら、身に覚えなきもののやうなる顔付にて
心の鬼 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
根に軽くいた草堤くさづつみの蔭から、黒い髪が、ひたいが、鼻が、口が、おお、赤い帯が、おなじように、そろって、二人出て、前刻せんこく姉妹きょうだいが、黙って……襟肩えりかたで、少しばかり、極りが悪いか、むずむずしながら
若菜のうち (新字新仮名) / 泉鏡花(著)