到処いたるところ)” の例文
旧字:到處
彼の母親は大泣きに泣いて十幾幕も愁歎場しゅうたんばを見せた。彼の祖母は三度井戸に飛び込んで三度引上げらた。あとで彼の母親は到処いたるところで説明した。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
○日露戦争この方十年来到処いたるところ予の目につくは軍人ともつかず学生ともつかぬ一種の制服姿なり。市中電車の雇人やといにん、鉄道院の役人、軍人の馬丁。
洋服論 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
到処いたるところに古いシヤトオと古蹟とあり、気候も温暖にして頗る住居に好い処であつた。
馬鈴薯からトマト迄 (新字旧仮名) / 石川三四郎(著)
きみしんえらばず、臣君を択ぶというようになっていたと見えて、五百がかくの如くに諸家の奥へのぞきに往ったのは、到処いたるところしりぞけられたのではなく、自分が仕うることをがえんぜなかったのだそうである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
始めとして到処いたるところ西洋まがひの建築物とペンキ塗の看板痩せ衰へた並樹なみきさては処嫌ところきらはず無遠慮に突立つてゐる電信柱と又目まぐるしい電線の網目の為めに
路地 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
始めとして到処いたるところ西洋まがいの建築物とペンキ塗の看板おとろえた並樹なみきさては処嫌わず無遠慮に突立っている電信柱とまた目まぐるしい電線の網目のために
今や世を挙げて西洋模倣の粗悪なる毒々しき色彩衣服に書籍に家屋に器具に到処いたるところ人の目をおびやかすにつけて、わずか両三年ぜんまではさほどにも思はざりける風土固有の温和なる色調
一夕 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)