かじ)” の例文
すっかり草臥くたびれてしまって、『どうじゃ一銭』を云うさえ億劫だし、手をのべたくても、手套てぶくろなしの手は我慢にも衣嚢かくしから出せないほどかじかんでいた。
幻想 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
と、何処でかキャンキャンと二声三声犬の啼声がする……きっと耳を引立ひったって見たが、もう其切それきりで聞えない。隣町あたりでかじけたような物売の声がする。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
南瓜かぼちゃのように蒼黒くかじかんで載っかっている一個の物、それは笊ではなくて、斬口鮮かな——男の生首だった。
昨夜の風がぎ澄まして行った、碧く冴えた虚空の下には、丹沢山脈の大山一帯が、平屋根の家並のように、びったりかじかんで一と塊に圧しつけられている。
雪中富士登山記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
「寒けりゃ女は蒼くなるものかね。私は今まで赤くなるとばかり思ってた。いいえ、戯言じょうだんじゃないよ。全くこう寒くちゃ遣切れない。手も何もかじかんで了う。時に、あの何は——大将は……」
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お信さんは手がかじかむといつて、提灯の火で温めた程だつた。
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)