傍杖そばづえ)” の例文
「わしも、傍杖そばづえくって、こんなむさい所へちてしまったので、見もせなんだが、跫音はたしかに、あっちへ遠のいて行った」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
亜米利加アメリカの排日案通過が反動団体のヤッキ運動となって、その傍杖そばづえが帝国ホテルのダンス場の剣舞隊闖入となった。
たかが山家やまがの恋である。男女の痴話の傍杖そばづえより、今は、高きそら、広き世を持つ、学士榊三吉も、むかし、一高で骨を鍛えた向陵の健児の意気は衰えず
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
共に映し返された鏡に向っても傍杖そばづえに苦渋な姿を何十何百かの分身の映像まで伴って反撃的に映り返して行く。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
見ていた男女も傍杖そばづえを恐れて去る。お松とお吉だけが、家の前に小さくなっている。家の中でドタバタ音がする。皿の壊れる音、棚から物の落ちる音などがする。
一本刀土俵入 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
かくてはわたくしが傍杖そばづえをくうおそれがあるので迷惑だから、道中どうちゅうだけを特に変装して貰うことにした。
「殿さまを殺す気はなかったが、あいにく其の日に限って、殿さまも船で帰ったので、云わば傍杖そばづえの災難に出逢ったのですよ。運の悪いときは仕方のないものです」
この前のあの新聞の事件が雪子に飛んだ傍杖そばづえを食わせたところから、今度は雪姉きあんちゃんが縁づく迄は軽はずみなことはしないと云っているので、そう急に破局が迫っているのでないことが
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
馬まで傍杖そばづえを食わして殺すのは非道ひどい。
果してそうであれば、傍杖そばづえを食ったおかみさんと自分はともあれ、主人が痛い目をみるのは是非ない事かとも思われた。いずれにしても元来た道を引っ返すのは危険である。
恨みの蠑螺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「いえ、女ってえものは、またこれがその柔よく剛を制すといった形でね。喧嘩にも傍杖そばづえをくいません、それが証拠にゃあ御覧ごろうじろ、人ごみの中でもそんなに足をふみつけられはしねえもんだ。」
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「そうすると、何かの呪詛——もし果たして何かの呪詛があったとすれば、それは透君ひとりにとどまっていることで、多代子さんはその傍杖そばづえを食っていたのかも知れませんね。」
深見夫人の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
勿論、そのなかには何の罪もなく傍杖そばづえの災難をうけた者もあるかも知れないと、庄屋の茂右衛門が先に立っていろいろに詮議をしたが、差しあたり是れという心あたりも見いだされなかった。
半七捕物帳:24 小女郎狐 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わしらも傍杖そばづえの怪我せぬうちと、命からがら逃げて来たのじゃ。
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)