低音バス)” の例文
やがてカーチャがめそめそ泣き出すと、彼は垂れ下った眉毛越しにぎろりと睨んで顔をしかめ、それから重々しい太い低音バスを出す。——
天才 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
まず、身長三尺五寸程と思われる小児の姿が法水の眼に映ったのであるが、なんと意外なことには、次の瞬間幅広い低音バスうなり出した。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
びっこを引き歩きながら「丸葉柳まるばやなぎは、やまオコゼは」と、少し舌のもつれるような低音バス尻下しりさがりのアクセントで呼びありくのであった。
物売りの声 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
停れストップ——」太い低音バスで叫んだのは、髪の縮れた、仁王のような安南人だ。右手を突出つきだし、ピストルの銃口を二人の胸に向けた。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
低音バスの最低音部を勤める、スウェルブイグーズといふ、補祭の縁つづきの哥薩克や、まだ誰や彼やが招ばれてゐる筈だ。
「まあ、あの方はいゝ低音バスのお聲なんですよ。そして音樂に對しても立派な趣味を持つてゐらつしやいますよ。」
たとえば導入節アインライツングや幽暗な或る低音バスの明暗や幻想的なスケルツォーにおいて、われわれはまことに大きな感動をもって、やがてきたるべき天才的精神のひらめきを
「おやすみなさい」ベンスンは太い低音バスの声で言った。
続いて東海さんの低音バスが、小声でなにか言っています。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
「開けてください、まことにお手数さま!」と誰かが門の外で、いんにこもった低音バスで言うのだった。「電報ですよ!」
可愛い女 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
それは本當だつた——何とも云へずこゝろよい、力のある低音バスで、その中には彼の感じ、彼の力がこもつてゐて、耳から心の中に沁み入り不思議な感じを起させるのであつた。
ある者は口笛を吹き、ある者は皮肉な喝采かっさいをした。最も気のきいた連中は「も一度ビス」と叫んだ。一つの低音バスが舞台前の一ぐうから響いてきて、道化どうけた主題を真似まねしはじめた。
「この靴の底あ、変えなくちゃいけねえ」と、病気の水兵が低音バスで寐言をいう。「そうとも、そうだとも。」
グーセフ (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
シャツ一枚になって、家の中を上下にき来し、アリアに歌劇オペラの身振りを伴わせて、響きわたる好きな低音バスで、しきりなしに歌っていた。——その後で、彼は出かけた、どんな天気にも。
さうして、おごそかに、低音バスの聲で云つた。
「そりゃわかるとも」と、病気の水兵が低音バスを出す、「死ねば当直日誌へ書き込むんだ。オデッサへ着くと司令官に報告を出す。そこからごうかどこかへ報らせが廻る……。」
グーセフ (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)