人形町にんぎょうちょう)” の例文
町人といっても、人形町にんぎょうちょうの三河屋という大きい金物問屋で、そこのお内儀かみさんがとかく病身のために橋場はしばの寮に出養生をしている。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あすは雛の節句で、十軒店じっけんだな人形町にんぎょうちょうの雛市はさぞたいへんな人出だろうが、本郷弓町の、ここら、めくら長屋では節句だとて一向にかわりもない。
顎十郎捕物帳:03 都鳥 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そんなことを考えているうちに人形町にんぎょうちょう辺の停留場へ来るとストップの自働信号でバスはしばらく停車した。
初冬の日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
夫婦に子がないので、善蔵の兄に当る杉の森の稲荷地内(人形町にんぎょうちょうの先)に当時呉服の中買いをしていた金谷浅吉という人の娘お若というのを引き取って養女にしました。
田辺の家の昔に比べると、今はすべての事が皆の思い通りに進みつつある。それが捨吉にも想像される。人形町にんぎょうちょうにぎやかな通を歩いて行って、やがて彼は久松橋のたもとへ出た。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
人形町にんぎょうちょうを過ぎやがて両国にきたれば大川おおかわおもて望湖楼下ぼうころうかにあらねどみず天の如し。いつもの日和下駄ひよりげた覆きしかど傘持たねば歩みて柳橋やなぎばし渡行わたりゆかんすべもなきまま電車の中に腰をかけての雨宿り。
夕立 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あの男の細君は或株屋の店の事務員になっていたんだが、その店の主人と関係をつけたんだ。それを野島は見て見ない振りをしていたおかげで、とうとう人形町にんぎょうちょうにカフェーを出さしてもらった。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
この間まで人形町にんぎょうちょうみやこバーにいたんですよ。だけれどももうよしたの。せん日比谷ひびやにいた時お友達になった姐さんがこの先の一丁目に世帯を持っているから二、三日泊りながら遊びに来ているのよ。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)