人中じんちゅう)” の例文
「きょうは人中じんちゅうじんを見た。一世を率いる宰相も国の宝だが、一畝いっせの田を守るかれの如きもひとしく土の宝じゃ。愚鈍はまま神にも近い」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
柄頭で敵の鼻梁はなばしらを突き、空いている方の左手で、敵の人中じんちゅうこぶし当て身! ただしこの術には制限があって、誰にも出来るというものではなかった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一生懸命な乙女の小さい顔、人中じんちゅうのところに一つ黒子ほくろのある上唇が生毛をかすかに汗ばませてふるえているのを見ると、ひろ子は乙女が可哀想になった。
日々の映り (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
此の苦痛を助かりたいと、始めて其の時に驚いて助からんと思っても、それはても何の甲斐もない事じゃ、此のを知らずして破戒無慚むざん邪見じゃけん放逸ほういつの者を人中じんちゅうの鬼畜といって、鬼の畜生という事じゃ
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「深い人中じんちゅうでございますこと」月子の声が聞こえて来た。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)