不貞ふて)” の例文
藝術的の氣分に緊張してゐるこの二人と、旅藝人のやうに荒んだ、統一のない不貞ふてた俳優たちとの間にはいつもこぢれた紛雜ふんさつが流れてゐた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
うしろ姿に手を合わせながらさんざん不貞ふてくされを見せたあげく、ああしたいい争いの末、とうとう若いひたむきな栄三郎を怒らせたものの
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
大阪へ着いた以上は、もうどうにでもなれというような不貞ふてくされをやったって、そうは問屋とんやおろさねえぞ——というようなのは宅助のつらがまえ。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
竜之助は誰に向ってもするように、ない袖は振れぬ、ないものは払えぬというのが不貞ふてくされのようにも取れば取れるので、勘定高い亭主が承知しない。
不貞ふてくされているのか、熟睡しているのか、寝すがたは、法印が、はいって行った気配にも身じろぎもせぬ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
健はやっぱし黙って縁の上につっ立って、だらりと両手をたれ、ぽかんとしたような、不貞ふてくされたような、それでいて今にも泣きだしそうな、複雑な表情であった。
大根の葉 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
女は不貞ふてくされて高い声で笑いぬいたとき男はびっしりと張りつけた。と、蒼くさっと洗ったように蒼くなった女はびっくりしてしばらくものをいわなかった。が、また変に笑い出した。
香爐を盗む (新字新仮名) / 室生犀星(著)
と入りながらちょっと笑顔を見せたが、すぐ不貞ふてたような面をして
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
女は全く不貞ふてたやうに口をつぐみました。
ある女の裁判 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
自分のせいではないことを責められてでもいるように不貞ふてた顔つきで母親の肩のところを見つめ
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
その様子は、凄いような美男だけに、不貞ふてくされているようにも見えたに相違ない。ことに、喬之助が虚心流きょしんりゅうの達剣であるということを誰も知らなかったのが、間違いの因だった。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「当り前? ……また不貞ふてくさっていやがるな」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)