下手物げてもの)” の例文
ここで一寸述べておきたいが、「下手げて」とか「下手物げてもの」とかいう俗語は、実に是等の婆さん達の口から始めて聞いた言葉なのである。
京都の朝市 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「黒蝶貝の主だぜ。得てして、こういう怪物は神様の御神体と同じように、カラでなければ、とんだ下手物げてものしか出ないものだて」
下手物げてものの道具を並べて、細々とやって来た与次郎ですが、三年ほど前から玉屋の養い娘お幾と踊の相弟子で懇意になり、その家へ遊びに行くうち、息子の金五郎と
えたいの知れぬ下手物げてものを並べ、なにがしかのお茶代にありつく趣向、大石良雄討入りの呼子、大高源吾の鎗印、乃至は何代目高尾のくしこうがい、紀文の紙入れなど途方もない珍物。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
「てめえの大変もかびが生えてる、また詰らねえ下手物げてものつばでもみつけたのだろう」
初午試合討ち (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それも「下手物げてもの」たる実用品最も美しく、茶道の影響あるものは大概悪い。この頃に至って釉薬も発達し、手法にも非常な変化を産んだ。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
下手物げてものの道具を並べて、細々とやつて來た與次郎ですが、三年ほど前から玉屋の養ひ娘お幾と踊の相弟子で懇意になり、その家へ遊びに行くうち、息子の金五郎と
骨董品但し下手物げてものを玩味する眼でひなびた達磨風俗に興を覚えてゐたのであつた。
狼園 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
だがいかにこの「上手物じょうてもの」に現れた美が、「下手物げてもの」を美しくしている諸条件を、具備しているかを注意せねばならぬ。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
下手物げてもの趣味のない音楽と言ってもまた面白かろう。もし幾分の哀愁がありとすれば、それはあまねからざるなき幸福感に必然する、一脈の「あわれ」であり、完全なるものの「物悲しさ」である。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
人々は驚くであろうが、そのほとんどすべてはあの民衆の生活に一番ゆかりの深い雑器の類であった。人々が俗称して「下手物げてもの」と蔑む低い器物である。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
俗語でこれ等のものを「上手物じょうてもの」と云いますが、これはもとより「下手物げてもの」に対する言葉なのです。
民芸とは何か (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
全くの下手物げてものである。典型的な雑器である。一番値の安い並物なみものである。作る者は卑下して作ったのである。個性等誇るどころではない。使う者は無造作に使ったのである。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
俗語で下手物げてものとか粗物そぶつとか雑具とか呼ばれる雑器の類は、凡て民藝品に属するわけです。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
吾々は三々五々、折を見出しては各地に品物をあさった。やがて廿年近くも前の事であるから、今とは事情が違っていた。「下手物げてもの」という俗語すら、多くの道具屋が知らなかった頃である。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)