上方唄かみがたうた)” の例文
大川端おおかわばたの方でよく上方唄かみがたうたなぞを聞かせてくれた老妓ろうぎが彼の側へ来た。この人は自分より年若な夫の落語家と連立って来て、一緒に挨拶した。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
小田原藩士ばかりでなく、京都へ勤務に上った藩では、どこにもそんな若侍がたくさんあって、上方唄かみがたうたの唄える侍というと、眉をひそめられたものだそうだ。
台広だいびろこまの、上方唄かみがたうたの三味線の音がゆるく響くと、涙がくゆってくるのであった。
大橋須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
上方唄かみがたうたあいの手のような三味線を聞くことを好み、芸で身を立てるような人達を相手に退屈な時を送ったこともあるが、如何いかなる場合にも自分は傍観者であって
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
千秋は、自作の国風こくふうを朗詠し、風流な十内も、近ごろ覚えたという上方唄かみがたうたなどを歌った。
上方唄かみがたうた台広だいびろこまにかかるいとは、重くしっとりと響いた。こい毛を、まっくろなつやに、荒歯の毛すじあとをつけた、ほどのいい丸髷まるまげって、向うむきに坐って三味線をひいている人がある。
大橋須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
酒の興を添えにその二階座敷へ来ていた女の一人は、日頃岸本が上方唄かみがたうたなぞの好きなことを知っていて、古い、沈んだ、陰気なほど静かな三味線しゃみせんの調子に合せて歌った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)