三番町さんばんちょう)” の例文
私の母は、やがて麹町こうじまち三番町さんばんちょうの実弟、坪内つぼうち家の邸内に移ることになった。私はそこで、十五歳まで、母とともに生活した。
私の歩んだ道 (新字新仮名) / 蜷川新(著)
お岩はそこで喜兵衛に口を利いてもらって、四谷塩町しおちょう二丁目にいる紙売の又兵衛またべえと云うのを請人に頼んで、三番町さんばんちょうの小身な御家人ごけにんの家へ物縫い奉公に住み込んだ。
四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
この年十二月二十一日の塙次郎はなわじろう三番町さんばんちょう刺客せきかくやいばに命をおとした。抽斎は常にこの人と岡本况斎きょうさいとに、国典の事をうことにしていたそうである。次郎は温古堂おんこどうと号した。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
東風が来たら待たせておけと云う気になって、郵便を入れながら散歩に出掛けたと思い給え。いつになく富士見町の方へは足が向かないで土手どて三番町さんばんちょうの方へ我れ知らず出てしまった。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
二人は夜ふけの風の涼しさと堀端のさびしさを好い事に戯れながら歩いて新見附しんみつけを曲り、一口阪ひとくちざかの電車通から、三番町さんばんちょう横町よこちょうに折れて、軒燈けんとう桐花家きりはなやとかいた芸者家の門口かどぐちに立寄った。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「いいえ、三番町さんばんちょうもずっと先の方……。」
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)