一襲ひとかさね)” の例文
「それには小袖一襲ひとかさねをやれ。それには太刀をつかわせ。……待て待て、茶具には何がある。彼には、茶入れをやるがよいか、馬をやるがよいか」
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白い大袿おおうちぎに帝のお召し料のお服が一襲ひとかさねで、これは昔から定まった品である。酒杯を賜わる時に、次の歌を仰せられた。
源氏物語:01 桐壺 (新字新仮名) / 紫式部(著)
流浪るらうの女人を本属にかへすは法式の恒例であると、相馬小次郎は法律に通じ、思ひやりに富んで居た。衣一襲ひとかさねを与へて放ちかへらしめ、つ一首の歌を詠じた。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
側にはそれでも畳んだまま、たしなみの紋付が一襲ひとかさね、蔦の紋のところに、白い糸のあるのは仕立直しの時着いたのでしょうか、平次はフトそんな事に気が付きました。
その品々の中に特にサビエルの遺体を蔽ふ一襲ひとかさねの外套を用意してもらつた。
むろの神に御肩みかたかけつつひれふしぬゑんじなればの宵の一襲ひとかさね
みだれ髪 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
張遼は、曹操から早口にいいつけられて路用の金銀と、一襲ひとかさね袍衣ひたたれとを、あわただしく持って、すぐ後から鞭を打った。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鳥には桜の色の細長、蝶へは山吹襲やまぶきがさねをお出しになったのである。偶然ではあったがかねて用意もされていたほど適当な賜物たまものであった。伶人れいじんへの物は白の一襲ひとかさね、あるいは巻き絹などと差があった。
源氏物語:24 胡蝶 (新字新仮名) / 紫式部(著)
すでに北条父子は、彼のために一襲ひとかさねの衣服と、扇子せんす、懐紙などまで整えて
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宮はつつましやかにお返事をお書きになって、お使いへは青鈍あおにび色のあや一襲ひとかさねをお贈りになった。宮がお書きつぶしになった紙の几帳きちょうのそばから見えるのを、手に取って御覧になると、力のない字で
源氏物語:37 横笛 (新字新仮名) / 紫式部(著)