一糸いっし)” の例文
面目の髣髴ほうふつたる今日からさかのぼって、科学の法則を、想像だも及ばざる昔に引張ひっぱれば、一糸いっしも乱れぬ普遍の理で、山は山となり、水は水となったものには違かなろうが
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
座に着いて、針箱の引出ひきだしから、一糸いっし其の色くれないなるが、幼児おさなごの胸にかゝつて居るのを見て
蠅を憎む記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
彼らは我々の目の前に、一糸いっしまとわぬ、赤裸々せきららの姿を見せてはいますけれど、まだ羞恥しゅうちの着物までは、脱ぎすてていないのです。それは人目を意識した、不自然な姿に過ぎないのです。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
アシビキ号の辻中佐との一糸いっし乱れぬぴったりと呼吸いきの合った賜物たまものだった。
大宇宙遠征隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
男は前にも云う如く、身には一糸いっしを附けざる赤裸で、致命傷は咽喉のどであろう、其疵口そのきずぐちから滾々こんこんたる鮮血なまちを噴いていた。更に驚くべきは、鋭利なる刃物を以ての顔の皮を剥ぎ取ったことである。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)