-
トップ
>
-
ドコ
臂が動き出した。片手は、まつくらな
空をさした。さうして、今一方は、そのまゝ、岩
牀の上を掻き搜つて居る。
臂が動き出した。片手は、まつくらな
空をさした。さうして、今一方は、そのまゝ、岩
牀の上を掻き搜つて居る。
郎女の心に動き初めた
叡い光りは、消えなかつた。今まで手習ひした書巻の
何処かに、どうやら、法喜と言ふ字のあつた気がする。
おれは、このおれは、
何処に居るのだ。……それから、こゝは何処なのだ。
其よりも第一、
此おれは
誰なのだ。其をすつかり、おれは忘れた。
何処からか吹きこんだ朝山
颪に、
御灯が消えたのである。
当麻語部の姥も、薄闇に
蹲つて居るのであらう。姫は
再、この老女の事を忘れてゐた。