-
トップ
>
-
うちまど
打惑ひて
入りかねたる彼の
目前に、
可疑き女客も
未だ
背けたる
面を
回さず、
細雨静に
庭樹を
撲ちて
滴る
翠は内を照せり。
未だ服さざりし毒の
俄に変じて、この薬と成れる不思議は、喜ぶとよりは
愕かれ、愕くとよりは
打惑はれ、惑ふとよりは
怪まれて、鬼か、神か、人ならば、
如何なる人かと
又想ふに、彼は決して自ら
尤るところなど有るに非ずして、
止だその
性の
多羞なるが故のみか、未だ知るべからず。この
二者の
前のをも取り難く、さすがに後のにも
頷きかねて、彼は又
新に
打惑へり。