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あどな
「あ!」と叫びし口は
頓に
塞がざりき。満枝は
仇無げに口を
掩ひて笑へり。この罰として貫一は
直に三服の吸付莨を
強ひられぬ。
この
仇無き
娧しらしき、美き娘の
柔き手を携へて、人無き野道の
長閑なるを
語ひつつ行かば、
如何ばかり楽からんよと、彼ははや心も
空になりて
得も
謂はれぬその
仇無さの身に
浸遍るに
堪へざる思は、
漫に唯継の目の
中に
顕れて
異き
独笑となりぬ。
別れまゐらせし歳は我が齢、僅に
二十歳を越えつるのみ、また
幼児を離せしときは
其が
六歳と申す
愛度無き折なり、老いて夫を先立つるにも泣きて泣き足る
例は聞かず