四方よも)” の例文
それが今日は生憎あいにく早暁そうぎょうからの曇りとなった。四方よもの雨と霧と微々たるしずくとはしきりに私の旅情をそそった。宿酔しゅくすいの疲れも湿って来た。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
飄々ひょうひょう四方よもの旅——は、は、とうとう、今は、江戸で、盛り場、神社仏閣のうらない者——が、久々で、めぐりあえて、うれしいのう
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
中央に望樓ありて、悲しく四方よもを眺望しつつ、常に囚人の監視に具ふ。背後うしろに楢の林を負ひ、周圍みな平野の麥畠に圍まれたり。
氷島 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
喜「彼奴あいつめ下物だって鮭の頭位だろう、あゝ有難い持つべきものは女房か、有難いな、うしたってもい酒は四方よもへ行かなければえな」
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
四方よも波風なみかぜしづかにして、世はさかりとこそは見ゆれども、入道相國が多年の非道によりて、天下の望みすでに離れ、敗亡の機はや熟してぞ見えし。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
玄宗の夢にあらわれた鍾馗のいてくらった鬼は、その耗であるのと例の考証をやってから、その筆は「四方よもの赤」に走って
貧乏神物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
いな、健在ならばという心で、君とそのみるめおひせば四方よもの海の、水の底へもくぐろうと、(ことづけ)をしたのであろう。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
四方よもの空はや靜かになりぬ、彼我に曰ふ。これは硬きくつわにて己が境界さかひの内に人をとどめおくべきものなり 一四二—一四四
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
四方よもの山々いよいよ近づくを見るのみ、取り出でていうべき眺望ながめあるところにも出会わねば、いささか心もみて脚歩あしもたゆみ勝ちに辿り行くに
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
つまり奈良の老若ろうにゃくをかつごうと思ってした悪戯が、思いもよらず四方よもの国々で何万人とも知れない人間をだます事になってしまったのでございます。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
夏は「四方よも木立こだちのしげしげとして、涼しき様」には見えぬが、さりとて幽玄でもない。ところが秋はすべて「淋しく悲しからぬ」題があろうや。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
地形の波面なみづら、木立、田舎家いなかやなどをたくみにたてにとりて、四方よもより攻め寄するさま、めずらしき壮観ものみなりければ、近郷の民ここにかしこに群れをなし
文づかい (新字新仮名) / 森鴎外(著)
晩餐ばんさんもすみ合奏もすんで四方よもの話しが出て時刻も大分だいぶ遅くなったから、もう暇乞いとまごいをして帰ろうかと思っていますと
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ぜひその間に、久々ぶり、お会いもして、四方よものお物語りなど、日頃の思慕の想いを尽したいと、念じております。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まず黒木の御所ごしょをつくり、大塔宮を奉戴ほうたいし、四方よもの山々に関を設け、路を切りふさいで往来を吟味し、叔父竹原八郎入道へ、今回の事情を申しやった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
酒は新川しんかわ鹿島かしま雷門前かみなりもんまえ四方よもから取り、椀は宗哲そうてつ真塗しんぬり、向付むこうづけは唐津からつ片口かたくちといったふうな凝り方なので
顎十郎捕物帳:18 永代経 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
山野に遊んで四方よもの景色を賞美していると言ったような、妙に俗塵離ぞくじんばなれのした恰好だ。背がすらりと高いので、年賀の礼装がこの人には一層よく似合う。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そのあひだイエスは四方よもの景色を見てぼんやりしてゐたが、ペテロを見ると「みんな捨てたか?」ときいた。
イエスとペテロ (新字旧仮名) / 片山広子(著)
ここに天皇、高山に登りて、四方よもの國を見たまひて、りたまひしく、「國中くぬちに烟たたず、國みな貧し。かれ今より三年に至るまで、悉に人民おほみたから課役みつきえだちゆるせ」
文治元年九月ながつきの末に、かの寂光院へ入らせおはします。道すがらも四方よもこずゑの色々なるを、御覧じ過ごさせ給ふ程に、山陰やまかげなればにや、日もやうやう暮れかかりぬ。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
実朝さねともの「四方よもけだものすらだにも」はやや理窟めきて聞ゆる「も」にて「老い行くたかの羽ばたきもせず」「あら鷹も君が御鳥屋みとやに」の二つはややこれに似たる者に有之候。
あきまろに答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「今朝春の小槌こづちを出たり四方よもの人 存義ぞんぎ」という句と全然同じ行き方ではないが、新春そのものを包括して、ある形の下に現したのが、この種の句の特色をなしている。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
舞い姫たちは、兄妹きょうだいを席場の真中の一番高い処の台の上に立たせて、パノラマのような四方よもの景色を見渡させながら、雪の台のまわりを歌をうたって踊ってまわりました。
雪の塔 (新字新仮名) / 夢野久作海若藍平(著)
かゝるやさしき振舞ふるまひさまたぐるは、こゝろなきわざおもつたから、わたくしわざ其處そこへはかず、すこはなれてたゞ一人ひとり安樂倚子アームチエヤーうへよこたへて、四方よも風景けしき見渡みわたすと、今宵こよひつきあきらかなれば
いるれば第一お目の毒なれば戸外おもてへ出て爛漫たる櫻のさかり山水のながめもとより四方よもの人が花に遊行あくがれさけに醉ひ打戲るゝ景状ありさまを御覽にならばお目の藥と再度ふたゝび言はれて氣色けしきばみ忠兵衞夫等を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
亞弗利加洲アフリカしうにアルゼリヤといふくにがある、凡そ世界中せかいぢゆう此國このくにひとほど怠惰者なまけものはないので、それといふのも畢竟ひつきやう熱帶地方ねつたいちはうのことゆえ檸檬れもんや、だい/\はなき亂れてそのならぬかほり四方よもちこめ
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
はるかに野原を見通せるところから二人の話も大抵四方よもの景色から起ッている。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
なつになると、つばめがんできました。そして、そのかわいらしい姿すがた小川おがわみずおもてうつしました。またあつ日盛ひざかりごろ、旅人たびびと店頭みせさきにきてやすみました。そして、四方よもはなしなどをしました。
飴チョコの天使 (新字新仮名) / 小川未明(著)
花はずっと貧弱だけれども。それから上へあがって、物干しに上って四方よもの景色を眺めたら、あちらに一本、こちらに三四本と八分通りの桜が見えました。そこには桜の樹はなさそうですね。
四方よもの海とほきえみしの國までも我が大君のものならじやは (同)
愛国歌小観 (旧字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
宿しゆくは永くまばらに續きたりこゝを過て岩村田いはむらたまでまだ四方よもの山遠く氣も廣々と田地開けたり岩村田よりやゝ山近くなり坂道もありこゝにていづれも足取重げなれば車を雇はんとせしが其の相談のうちに宿を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
その夜は其寺そこへ泊りまして翌日また湖水の辺に出て四方よもの景色を眺めながらあちらこちらを散歩しておりますと、そこへネパール人及びインド人などのごく熱心なインド教の信者が参詣に参りまして
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
四方よもより客を呼びしかば、われら二人も共なりき。 770
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
雨雲の四方よもに垂りつつかき光りとろめる海にわが船は居る
熊野奈智山 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
あさぢふの露の宿りに君を置きて四方よもあらしぞしづ心なき
源氏物語:10 榊 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ほとほと過ぎし折しもあれ、忽ち四方よもは照渡り
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
だいぶ春めきて、四方よもの景色いとよろし。
ああその旺んな春の兆しは四方よもに現れて
一点鐘 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
城外や水春にして四方よもの船 水巴
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
余勢、なほ四方よもの木をゆする。
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
四方よもとざす空より落つれば
二 四方よもそびゆる山々は
県歌 信濃の国 (新字新仮名) / 浅井洌(著)
四方よもりたるはね
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
み空より四方よもの海より
オリンピック東京大会讃歌 (旧字旧仮名) / 佐藤春夫(著)
四方よもの氷の扉ひらかれ
抒情小曲集:04 抒情小曲集 (新字旧仮名) / 室生犀星(著)
獄卒四方よもに群がりて
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
遠く四方よもを照せり。
四方よもの山が沈み
四方よもの国より
昨夜、四方よものお話しついでに、今朝までにはお捜しおいて、お餞別せんべつにさし上げましょうとお約束しておいた物を
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)