内儀ないぎ)” の例文
女中や番頭に取り巻かれて、すすぎだらいの前へ腰かけたのは、商家の内儀ないぎらしい年増の女と、地味なしまものを着た手代てだい風の男であった。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
円髷まるわげに結ひたる四十ばかりのちひさせて色白き女の、茶微塵ちやみじんの糸織の小袖こそでに黒の奉書紬ほうしよつむぎの紋付の羽織着たるは、この家の内儀ないぎなるべし。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
町家の内儀ないぎや娘らしいのがそれぞれに着飾って、萠黄もえぎの風呂敷包などを首から下げた丁稚でっちを供にれて三々伍々町を歩いている。長閑のどかな景色だ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
なにかな、御身おみ遠方ゑんぱうから、近頃ちかごろ双六すごろく温泉をんせんへ、夫婦ふうふづれで湯治たうぢて、不図ふと山道やまみち内儀ないぎ行衛ゆくゑうしなひ、半狂乱はんきやうらんさがしてござる御仁ごじんかな。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その人だかりの中には、日ごろはおもてなどへ出たこともない大問屋の内儀ないぎたちも交っている。私はよそから帰って来て、なにごとだろうかと思った。
日本の旅館の不快なる事は毎朝毎晩番頭や内儀ないぎの挨拶、散歩の度々に女中の送迎、旅の寂しさを愛するものに取ってはこれ以上の煩累はんるいはあるまい。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その時また烈しい風が、どっと茶室をすぶりました。それに声がまぎれたのでしょう。弥三右衛門の内儀ないぎの言葉は、何と云ったのだかわかりません。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
帳場の背後うしろより立来り「何を御覧に入ましょう目「いや買物では無い、外の用事だ、内儀ないぎは内か下女「はいお内です、是へお呼申しましょう」とて
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
「そいつを教えてはならない内儀ないぎが、先刻さっきとう/\息を引取ったからですよ。内儀おかみさんさえ死んでしまえば、隠して置く張合も無いようなわけで——」
きまりの悪そうなのも道理、この屋台店の主婦というのが、本郷の山岡屋の内儀ないぎのお滝がれのはてでありました。
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
商家のお内儀ないぎというものの明け暮れがどんなものかということも、さんざん見あきるくらい見てきていながら
内儀ないぎ様と云われるのを喜んだり、箸の持ち運び、食事の仕様までもそのままなのを見ると、それが山下久米八くめはちと、いかに際立った対照をなしているか判ることと思う。
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
引出し終に表店おもてだなへ出てなりに暮し一度は流行りうかうしけれども元よりおのれに覺えなきわざなれば終には此處の内儀ないぎが藥違ひにて殺されたの彼所の息子むすこ見立違みたてちがひにて苦しみしに
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
奥へ入ってから、彼は子供達や中風ちゅうぶうの夫と一塊になって寝ている内儀ないぎに声をかけられた。
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
「お内儀ないぎ、お内儀、何をこれしきの傷。死にはしないから、気を確かに持ちなさい」
此處こゝ内儀ないぎまへにうかびたるかたちは、横巾よこはゞひろくたけつまりしかほに、目鼻めはなだちはまづくもあるまじけれど、びんうすくして首筋くびすぢくつきりとせず、どうよりはあしながをんなとおぼゆると
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
渡さねえか。愚図愚図していると、ホラ、お内儀ないぎのこの美しい頬っぺたから赤い血が流れるんだぜ。ふた目と見られぬ、恐ろしい顔に早変りしてしまうんだぜ。サア、鍵を渡さねえか
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
貞之進ははなはだ遺憾のこりおしげに帰りかゝる時、すっきりとした三十三四の鉄漿かねつけた内儀ないぎが礼に出て、門口まで送って来たが、歌ちゃん明日は縁日ですよと婢が云うを、小歌はそれには答えずして
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
「お内儀ないぎ、とんだ災難だったのう」
助五郎余罪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
夏痩の言葉けわしき内儀ないぎかな
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
様子やうすけば、わし言托ことづけとほり、なにか、内儀ないぎ形代かたしろ一心いつしんきざむとく、……それ成就じやうじゆしたと昨夜ゆふべぢや。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あのせつは、ご心配をおかけいたしましたが、今では、ささやかですが、穀商人こくあきゅうど内儀ないぎになり、子どもまでもうけて、親どもと一緒に暮らしております。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「このうちには、金があり過ぎた。女も多過ぎた。皆んな主人をうらんでいた。隣の人も、奉公人たちも内儀ないぎまでも」
余は此言葉に依りあたかも稲妻の光るが如く我が脳髄に新しき思案の差込み来るを覚えたり、一分の猶予も無く熱心に倉子に向い「では内儀ないぎ犯罪の夜に此犬は何所どこに居ましたか」
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
これ此家このや旦那だんな殿の寝所しんじよならめと腰障子をすこしつきやぶりて、是より入つて見れば夫婦枕をならべて、前後も知らず連れぶしいびきに、(中略)まづ内儀ないぎの顔をさしのぞいて見れば
案頭の書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
町家ちょうか内儀ないぎらしい丸髷まるまげの女がななやっツになる娘の手を引いて門のなか這入はいって行った。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
内儀ないぎ同様のお高なので、このごろでは、男たちも、改まった口をきいているのだ。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
内儀ないぎが、遅い夜食の後の歯を楊子ようじでせせりながら彼の横に立って、言った。
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
むすめかせたることろんなしとこゝの内儀ないぎひとわるにてにらみぬ、手跡しゆせきによりてひとかほつきをおもひやるは、いてひと善惡ぜんあく判斷はんだんするやうなもの、當代たうだい能書のうしよ業平なりひらさまならぬもおはしますぞかし
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
と相模屋の内儀ないぎが驚くのを
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
顔そむけづる内儀ないぎ溝浚みぞさらい
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
言ふ其人はゆかなつかし何人ぞやと出合頭であひがしらかほ打詠うちながめ見れば此方こなたの彼男はお前こそは道十郎殿の御内儀ないぎお光殿にて有しよなめづらしき所にてたえて久しき面會めんくわいなり拙者せつしや事は瀬戸物屋せとものや忠兵衞と言れてお光はかほうちまもり扨は忠兵衞殿にて在せしかと往昔馴染むかしなじみの何とやらなつかしきまゝことば
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
天守てんしゆ主人あるじは、御身おみ内儀ないぎ美艶あでやかいろ懸想けさうしたのぢや。もない、ごふちから掴取つかみとつて、ねやちか幽閉おしこめた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
久助は、さびしい裏町へお蝶を導いて、何を渡世とせいにする家とも分らない一軒のしもたやの戸を開けて、顔を出したそこの内儀ないぎと小声で話しておりましたが
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「此うちには、金があり過ぎた。女も多過ぎた。皆んな主人をうらんで居た。隣の人も、奉公人達も内儀ないぎまでも」
町家ちやうか内儀ないぎらしい丸髷まるまげの女が七八なゝやつツになる娘の手を引いて門のなか這入はいつて行つた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
私しは氷をたべようと思いましたが一人では余り淋しい者ですから右隣の靴店くつみせ内儀ないぎと左隣の手袋店てぶくろみせの内儀を招きましたところ、二人とも早速さっそくに参りまして十一時過までもこゝに居ました
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
願います。またこちらはお内儀ないぎ、いや奥様
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
江戸の大通だいつうともあろうものが、召使にチョッカイを出して内儀ないぎにうんと油をしぼられていることでしょう。
内儀ないぎもまだ若いし、あんな小娘と二人りで、よくこんな山里に住んでいられるな」
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まずは月幾分いくぶの利金を捨てる位のもので大した損はあるまいと立派にバランスを取って見た上、さて表立っての落籍なぞは世間の聞えをはばかるからと待合の内儀ないぎにも極内ごくないで、万事当人同志の対談に
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
江戸の大通だいつうともあらうものが、召使にチヨツカイを出して内儀ないぎにうんと油をしぼられてゐることでせう。
そういっても、友だちばらにはわかっていた。——この秋には、天皇、上皇おそろいで、ふたたび仁和寺にんなじ行幸みゆき内儀ないぎがあり、同日同所において、競馬を覧給みたもうと、さたされている。
あの人が嫁にでも行けば、世話の仕手がなくなって、内儀ないぎのお駒さんも自分でこしらえた座敷牢から出て来る気になるかもしれません——と、こんなことを言っていましたが
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「お前も、家にいた頃と違って、すッかり堅気かたぎのお内儀ないぎらしくなりましたね」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
戸を開けてくれたのは、下女のお近といふ中年女、内儀ないぎのお徳も奧から聲を聽いてやつて來て
「これはお珍らしいことで、四国屋のお内儀ないぎ様ではございませんか」
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
驚いたことに、内儀ないぎのお世乃は一番まとまつた金を持つてをり、その次は下女のお萬が物持ちで、番頭の才八と、法印無道軒は殆んど百も持つて居ないことがわかりました。
「あなたの内儀ないぎですか」と性善坊が口を入れた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
家中の者が集まつた中から、内儀ないぎのお種が飛んで出ると、平次のたもとにすがりつくのです。