とど)” の例文
ジサ女、年中何の月にも属せず、太陽天にとどまって動かぬと信ぜらるる日をえらび、身にあみおおったのみ故、裸とも著衣とも言えぬ。
されど近年かくの如きものを見ること稀なれば淺草觀音堂のむかしなど思出でゝ杖をとどむること暫くなり。歸宅後一睡。寤めて後小説執筆。
荷風戦後日歴 第一 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
わっちかい、」と滝太歩をとどめて振返ると、木蔭をこみちへずッと出たのは、先刻さっきから様子を伺っていた婦人おんなである。透かして見るより懐しげに
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかし彼はただこの平等の思想にのみとどまらなかった。そこに停まりそれを徹底せしめたのは、むしろ同時代の念仏宗である。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
湖水はこの処にて、次第々々に深くなりて、勾配こうばいゆるやかなりければ、舟のとどまりしあたりも、水は五尺に足らざるべし。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
西洋人の馬車が店前てんぜんとどまって盛装した婦人が自分でハムの片腿かたももを下げている事も沢山ある。日本の貴夫人が食品屋へ入ったのは見た事がない。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
此時たちま轣轆れきろくたる車声、万籟ばんらい死せる深夜の寂寞せきばくを驚かして、山木の門前にとどまれり、剛一は足をとどめてキツとなれり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
しかも植物式の囚われ方をしたもののうちで偉大なものになると、鳥を宿し、星をとどめ、雲を払い、風にえて、素晴らしい偉観を呈するのがあります。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
第五十九条 裁判ノ対審たいしん判決ハこれヲ公開ス但シ安寧秩序あんねいちつじょ又ハ風俗ヲ害スルノおそれアルトキハ法律ニリ又ハ裁判所ノ決議ヲもっ対審たいしんノ公開ヲとどムルコトヲ
大日本帝国憲法 (旧字旧仮名) / 日本国(著)
しゅうとどまるもくも、岫を出ずるも雲、かいするも雲、別るるも雲、何をか一じょうを期せん。——おさらば、おさらば」
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
探偵小説の謎もあたうかぎり卑近な常識的な材料を使い、その推理の難易程度もこの辺の中庸にとどめ、つその謎の答が相当センセイショナルなものを……。
軍用鼠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
大原野で鳳輦ほうれんとどめられ、高官たちは天幕の中で食事をしたり、正装を直衣のうしや狩衣に改めたりしているころに、六条院の大臣から酒や菓子の献上品が届いた。
源氏物語:29 行幸 (新字新仮名) / 紫式部(著)
と例の大声でののしるのが手に取るように聞えた。村長は驚いて誰が叱咤しかられるのかとそのまま足をとどめて聞耳をてていると、内から老僕倉蔵がそっと出て来た。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
『あゝあまりに哀れなる物語に、法體ほつたいにも恥ぢず、思はず落涙に及びたり。主婦あるじことばに從ひ、愚僧は之れより其の戀塚とやらに立寄りて、暫し𢌞向ゑかうの杖をとどめん』
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
この時せはしげに聞えし靴音ははやみたり。人は出去いでさりしにあらで、七八間彼方あなたなる木蔭に足をとどめて、忍びやかに様子を窺ふなるを、此方こなた三人みたりたれも知らず。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「死刑ノ宣告ヲ受タル婦女懐胎ナルトキハその執行ヲとどメ分娩後一百日ヲルニアラザレバ刑ヲ行ズ」
遺伝 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
酒場バーの前を過ぎて、時間表のかかげてある大時計のわきを通りかゝった時、泉原は群集の中に何ものかを見つけたと見えて、呻くような低い叫をあげてハタと足をとどめた。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
しかしながら煙はもとより一所いっしょとどまるものではない、その性質として上へ上へと立ち登るのだから主人の眼もこの煙りの髪毛かみげもつれ合う奇観を落ちなく見ようとすれば
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
元豊は馬でそのへいの外を通っていたが、中から笑い声が聞えるので、馬をとどめ、従者にくらをしっかり捉えさしてその上にあがって見た。そこには二人の女郎むすめが戯れていた。
小翠 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
かれかたる間も我等歩みをとどめず、たえず林を分けゆけり、即ち繁き魂の林なり 六四—六六
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
それよりいっそここにとどまられて変わった吾らの生活くらし振りをご覧なさるも一興でござろう。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
M君が小諸に足をとどめたころは非常な勉強で、松林の朝、その他の風景画を沢山作られた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
深いたにや、高い山を幾つとなく送ったり迎えたりするあいだに、汽車は幾度いくたびとなく高原地の静なステーションにとどまった。旅客たちは敬虔けいけんなような目をそばだてて、山の姿を眺めた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
大日坂だいにちざかの下まで来ると、足をとどめて、一応四方あたりを見廻しましたが、砂利屋が建て捨てた物置小屋の後ろへ廻ると、節穴だらけな羽目板へこぶしを当てて、二つ三つ妙な調子に叩きました。
今やそのロイド・ジョージがこの軍国多事の際に当たって、とうとう総理大臣となったのである。私はしるしきたって彼を思いこれを思う時、筆をとどめて落涙するを禁じ得ざる者である。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
(海をめぐる峰々はおのずから屏のごとく、湾の曲折した奥に旅客を乗せた軽舟をとどむ。ノルウェーの西部は七月の夏の気候にしてもなお浅く、眼に入る山や田の麦はようやく青さをみせている。)
南半球五万哩 (新字新仮名) / 井上円了(著)
天下の勢、滔々とうとうとして日に降り、以て今に至る。その由、けだし一日にあらざるなり。しばらく近きを以てこれを言わん。墨使ぼくし、幕府に入り、仮条約をたてまつる。天子これを聞き、勅を下してこれをとどむ。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
間もなく次の電光は、明るくサッサッとひらめいて、にわ幻燈げんとうのように青くうかび、雨のつぶうつくしい楕円形だえんけいの粒になってちゅうとどまり、そしてガドルフのいとしい花は、まっ白にかっといかって立ちました。
ガドルフの百合 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
灯の河の大街アヴェニウを横断したり眠ってる往来リュウを過ぎたり、エッフェルが見えたり見えなくなったり、遠くの町を明るい電車が走っていたりとどまっていたり——とにかくぶうとセエヌを渡って、昼ならば
むすめちた団扇うちわながに、呉絽ごろおびをかけると、まわ燈籠どうろうよりもはやく、きりりとまわったただずまい、器用きようおびからして、さてもう一まわり、ゆるりとまわった爪先つまさきえんとどめたその刹那せつな
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
夏麻なつそ挽く、海上潟うみかみがたの、沖つ州に、船はとどめむ、さ夜更けにけり。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「王よ。この部屋をわれに与えよ。われは此処こことどまろう。」
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
この職には死ぬまでとどまっていたのである。
レーリー卿(Lord Rayleigh) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
文三は笑いをとどめて
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
明年となったら慎んで来ないようといって去った、狩人そこにとどまり一年猟続け所猟えもの甚だ多く家巨富となった
するとその微小人間は、身体に似合わぬ大声を出して、そんな乱暴をするなと私を押しとどめ、自分は逃げるつもりはないから、安心し、れと語れといった。
この橋の上に杖をとどめて見ると、亜鉛葺トタンぶきの汚い二階建の人家が、両岸から濁水をさしばさみ、その窓々から襤褸ぼろきれをひるがえしながら幾町となく立ちつづいている。
深川の散歩 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「罪なこッたね、悪い悪戯いたずらだ、」と言懸けて島野は前後を見て、ステッキを突いた、辻の角で歩をとどめたので。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
偶々たまたま信濃新報を見しに、処々の水害にかえり路の安からぬこと、かずかずきしるしたれば、最早もはや京に還るべき期も迫りたるに、ここにとどまること久しきにすぎて
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
とどめ「ヤアお早う、諸君はナゼ僕の顔ばかり見て笑っています。顔に何かついていますか」書生の一にん
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
しばらく、四天王寺にとどまっていた。そして、ふたたび草鞋わらじの緒を結ぶと、足を、河内路かわちじへ向けて、二月末の木の芽時を楽しむように、飄々ひょうひょうと、たもと東風こちにふかせてゆく。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
悉く照らしてえらぶ所なければシャロットの女の眼に映るものもまた限りなく多い。ただ影なれば写りては消え、消えては写る。鏡のうちにながとどまる事は天にかかる日といえどもかたい。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
此時漸くひさしに掛けた梯子に思い付き、少し遠回りながら、屋根から二階の窓へ飛付き、死に行く男姿の姉に必死とすがりつきましたが、それは併し、とどめようの無い、恐ろしい破局で
しかし疑いは疑いにとどまって一つも証拠が上らなかったので——それに博士は何んと云っても世界有数の大学者でもあるしリンネ大賞牌の受領者であって人格にも欠点がなかったので
物凄き人喰い花の怪 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その時に王は皆の前に馬をとどめて、左の拳を高く差し上げながら——
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
暗夜の寒風にふるへて急ぐ憂き世の人の足をさへ、ばしとどめしむ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
少女は軒下にて足をとどめ、今一度青年の方を見たり。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
暗に針綫しんせんとどめて双蛾をひそ
連城 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
それでこの本館にさえいてくれれば、いざというときには私が直ぐかけつけて手当をしてあげられるわけだから、ぜひこの本館にとどまっていてもらいたいのだ。
火星探険 (新字新仮名) / 海野十三(著)
甲走かんばしる声は鈴のよりも高く、静かなる朝のまちに響き渡れり。通りすがりの婀娜者あだものは歩みをとどめて
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)