何方どつち)” の例文
『まァ、大層たいそうよろこんでること』あいちやんはおもつてほもつゞけました。『をしへて頂戴てうだいな、ね、わたし此處こゝから何方どつちけばいの?』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
何方どつちが負けたにした所で、しんいきほひを失ふといふ事にもならず、美がかゞやきを減ずるといふ羽目はめにも陥る危険はないぢやありませんか
点頭録 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
何方どつちいたツて、人の影が一つ見えるのではない。何處どこまでもくらで、其の中に其處そこらの流の音が、夜の秘事ひめごと私語ささやいてゐるばかり。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
何だべえせえ、自分のとこでなかつたら具合ぐあえが悪かんべえが? だらハア、おらア酒え飲むのさ邪魔さねえば、何方どつちでもいどら。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
無暗に豪傑振つて女を軽蔑したがるくせに高が売女ばいぢよの一びん一笑に喜憂して鼻の下を伸ばす先生方は、何方どつちかといふと却て女の翫弄物ぐわんろうぶつだ子。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
「君、つかん事を訊くやうだが、姑蘇こそ城外の蘇の字だね、あれは艸冠くさかむりの下のうをのぎとは何方どつちに書いた方がほんとうだつたかな。」
さうかと云つて何方どつちをどうすることも出来ず、陰で心配するばかりで、何の役にも立たないながら、これでなかなか苦いのは私の身だよ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
一体何方どつちが悪いのだらう。あゝわれは心ならずも己が家の人々とも意志疎通せざるか、「嘆かふ心、嘆かむにもよしなし……」であります。
青白き公園 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
鳥屋とや小鳥ことりるためにつくつてある小屋こやのことです。何方どつちいてもやまばかりのやうなところに、その小屋こやてゝあります。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「百萬兩の嫁に望まれただけあつて、良い娘でしたよ。おひんがよくて、やさしさうで、あつしなら、百萬兩とあの娘と、何方どつちを取ると言はれたら」
さうした惱ましげな何方どつちからも切り出せないやうな重い二分ばかりの時間がつづいたあとに、殆んど音もけはひもなく、また少しの重みもない或る瞬間
蒼白き巣窟 (旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
何方どつちかといへば場末の土地の名を、本の表題にするのは面白くないやうな氣がしたが、今になつて考へてみると
母の手から貰つて横に糸でゆはへ附けてある鍵で箱の中をあけやうとするのであつたが、金具は通つて来た海路かいろの風の塩分で腐蝕して鍵が何方どつちへも廻らない。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
入勝橋にふしようけうから福渡戸ふくわとに行くあたりは、殊にすぐれてゐる。しかし、箒川の谷は何方どつちかと言へば女性的である。奔湍急瀬の壯よりも、寧ろ清淺晶玉の美である。
日光 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
「けれど姉さん、何方どつちかへくとおめなさらねばならんでせう、両方へ嫁くわけにはならないんだもん」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
何方どつちへ行つても、見覺えた道へは出られなくつて、まご/\してゐるうちに、足は疲れて眠くもなつて、木の根につまづいて打倒ぶつたふれたまゝ、前後も知らず眠つてしまつた。
(旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
東京市の河流は其の江湾なる品川しながは入海いりうみと共に、さしてうつくしくもなく大きくもなく又さほどに繁華でもなく、誠に何方どつちつかずの極めてつまらない景色をなすに過ぎない。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
それで澤山な報酬が得られる仕事とでも云ふのならいけれ共、海とも山とも付かない不安なさかいへ又踏み込んで行つて、結局は何方どつちう向き變つて行くか分らないと云ふ始末を思ふと
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
何方どつちつても造作ざうさりません、きですよ。岩「それでも極楽ごくらくは十まん億土おくどだとふぢやアないか。重「其処そこ停車場ステンシヨンりますから、汽車きしやに乗れば、すうツときにかれますよ。 ...
明治の地獄 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
此處こゝぬものか、なないものか、自分じぶん判斷はんだんをして、きるとおもへば平氣へいきし、ぬとおもしづか未來みらいかんがへて、念佛ねんぶつひとつもとなへたらうぢや、何方どつちにしたところが、わい/\さわぐことはない。
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
これでは何方どつち病人びやうにんわからなくなつた。自分じぶん斷念あきらめてをふさいだ。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
道臣は先づ東の門前の水茶屋の軒下に立つて、何方どつちへ行つたものかと考へた。水茶屋の戸は堅く締つて、雨風にさららされた黒い板のところ/″\に新らしくつくろはれた痕が、白く浮き上つて見えてゐた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「お嬢様! 何方どつちらつしやるのでございます?」
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
何方どつちの方へ逃げてつた
都会と田園 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
何方どつちもモウ背許り延びてカラ役に立ちませんので、……電信柱にでも売らなけや一文にもなるまいと申してゐますんで。ホホヽヽヽ。』
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「猛烈にははたらけるかも知れないが誠実にははたらきにくいよ。ためはたらきと云ふと、つまりふのと、はたらくのと何方どつちが目的だと思ふ」
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
『どれ、第一だいいち歩調ほてうをやつてよう!』と海龜うみがめがグリフォンにひました。『えびがなくても出來できるだらう、何方どつちうたはう?』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
「それは何方どつちだツてうございますけれども、私は何も自分から進むで貴方あなたと御一緒になツたのぢやございませんから、うぞ其のおつもりでね。」
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
何方どつちが性悪なんでせう、もしか仰有る通り、貴方が私にお惚れなすつたのだつたら、あの女のかた追駈おつかけはなさらなかつた筈ぢやなくつて。」
お妙を殺したのは、二人のうちの、何方どつちでもないよ。二人は何處へも行かずに、あのもとの岡崎屋跡の小屋へ歸るのだ。
銭形平次捕物控:315 毒矢 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
いやになつたら何時でも左様さやうならをキメるまでサ——大洞おほほらさんもサウおつしやるんだよ、決して長くとは言はない、露西亜ロシヤ戦争いくさ何方どつちともまるまでの所、いやでもあらうが花ちやんに
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
何方どつちも本当ではあるが、しかし何方も主観に偏つたセンチメンタルな見方で、不動不変な自然は、心理は、愛はまだその一段上に位置して、大きな不壊ふえなリズムを刻みつゝあるのである。
自からを信ぜよ (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
「ぢや何方どつちにするのさ!」繁代は焦れた。「妾は行つたつていゝのよ。」
眠い一日 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「黙つといで——黙つといで——学校の先生と大将と何方どつちが強い?」
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「ですから、まあ、何方どつちへいらつしやつたのかと思ひまして……」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「そして、八田潟はつたがたふないくさをしたら、何方どつちつ?……」
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
『アリヨルと何方どつちが大きい。』
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
何方どつちつたらからう。
明治の地獄 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
何方どつちかにしなければ生活の意義を失つたものとひとしいと考へた。其他のあらゆる中途半端ちうとはんぱの方法は、いつはりはじまつて、いつはりおはるよりほかに道はない。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
自分のとこでなかつたら具合が惡かんべえが? 然だらハア、俺ア酒え飮むのさ邪魔さねえば、何方どつちでも可いどら。
赤痢 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
いさ、おれもそりや何方どつちだツていさ。雖然けれどもこれだけは自白じはくして置く。俺はお前のにく吟味ぎんみしたが、心は吟味ぎんみしなかツた。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
庭の植込をくゞれば別ですが、廊下傳ひに來るには、お勝手か旦那樣の部屋の前か、何方どつちかを通らなきやなりません。
しかし金子堅太郎と高田実と何方どつちが人間らしい仕事をしたかといふ段になると、誰でもが高田の方へ団扇うちはをあげる。
しそれがおほきくなつたら』と獨語ひとりごとつて、『隨分ずゐぶんみにく子供こどもになるでせう、けど、何方どつちかとへば大人おとなしいぶたよ』つてあいちやんは、ぶたにでもなりさうな
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
世の係累をしばし戦ひのちまたのがれやうとしたか、それともまだ妻子のめに成功の道を求めやうとしたか、それは何方どつちであるかわからぬが、かくみづから進んでこの地につて来たことは事実である。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
斯の子供の「何方どつちが強い」には娘達はさん/″\弱らせられて居る。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
何方どつちがほんとの自分であるか解らなくなつてしまふ時がある……。
鏡地獄 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
かはづ何方どつち味方みかたをする。」
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
また其前そのまへ改革かいかく淘汰たうたおこなはれるにちがひないといふうはさおもおよんだ。さうして自分じぶん何方どつちはう編入へんにふされるのだらうとうたがつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
社長は何方どつちかと云へば因循な人であるけれど、資本ぬしから迫られて、社の創業費を六百円近く着服ちよろまかしたと云ふ主筆初め二三の者を追出して了つた。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)