仮名かな)” の例文
旧字:假名
今年は小学校へ入学するはずであるが、数字はやっと十一までしか数えられず、ひら仮名かなで、自分の名前を書くことがやっとこさである。
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
では自分で仮名かなの一字でも教えてくれたか。父はそれもしない。そしてただ、終日酒を飲んでは花をひいて遊び暮したのだった。
とその○□△を楽書らくがきの余白へ、鉛筆を真直まっすぐに取ってすらすらと春の水のなびくさまに走らした仮名かなは、かくれもなく、散策子に読得よみえられた。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
男の顔がはなはだ獰猛どうもうにできている。まったく西洋の絵にある悪魔デビルを模したもので、念のため、わきにちゃんとデビルと仮名かなが振ってある。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
宗業むねなりが、そちのために、書いたのか。……これほどの仮名かなの名手は、探してもそう数はない。よい師を持っていて、おことは、しあわせ者だ」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
のみならず、いつも漢字と共に使用される関係上、自然と漢字と同じやうに仮名かなそのものの形にも美醜の感じを含み易い。
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
世間せけんの女の子によく百合子があるが、これは正しい書き方ではない。ゆえにユリコといいたければ、仮名かなでユリ子と書けば問題はないことになる。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
索引さくいんは五十おんわかちたり、読者どくしゃ便利べんり正式せいしき仮名かなによらず、オとヲ、イとヰ、のるいちかきものにれたり
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
あるものは仮名かな文字、あるものは真名まな文字というふうに。それを三郎にも益穂にも分けると、二人は大よろこびで持ち帰ったころは夜もおそかった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それと後にやや日本化し得た我々の仮名かな文字を、初期には女文字と呼んでいたことと、女流が日本文学の先進者であったこととは、明らかな関係がある。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
手紙は皆きれいな字の漢文です。仮名かななんか一字だって混じっておりません。よい文章などをよこされるものですから別れかねて通っていたのでございます。
源氏物語:02 帚木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
おもて入口いりくちには焦茶地こげちやぢ白抜しろぬきで「せじや」と仮名かなあらは山形やまがたに口といふ字がしるしついところ主人あるじはたらきで、世辞せじあきなふのだから主人あるじ莞爾にこやかな顔、番頭ばんとうあいくるしく
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
その中には随分過激な論もあって、日本語を英語にしてしまうなどという論者もあり、あるいは仮名かなの会とか、羅馬ローマ字会とか、種々雑多なものが起ったのである。
煙草たばこの煙りを口へ吸って、それを口から吐き出して、やなぎ蹴毬けまりとか、仮名かな文字とか、輪廓だけの龍虎りゅうことかそういうものを空へかいて、見物へ見せる芸なのである。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
好奇心のまま読みにくい仮名かな文字を、何気なく拾って見ますと、それは次のようにしたためてありました。
覆面の舞踏者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
書入れをしたり仮名かなをつけたりして、やっと読むことのできる語録を二三冊持っていることが、和尚の虎の巻で、それを取り上げてしまえば、水をあがった河童かっぱ同様で
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「待て待て、仮名かなが四つ、本字が三つじゃ手の付けようがない。何か順序があるだろう」
と大谷夫人は台所のメモに雁鴨青籠詰めの図と書いて仮名かなまで振ったのを差しつけた。
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
私自身の経験によっても私は文天祥ぶんてんしょうがドウ書いたか、白楽天がドウ書いたかと思っていろいろ調べてしかる後に書いた文よりも、自分が心のありのままに、仮名かなの間違いがあろうが
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
山川村庄さんせんそんしやうはさらなり、およそ物の名のよみかた清濁すみにごるによりて越後の里言りげんにたがひたるもあるべし。しかれども里言は多く俗訛ぞくなまりなり、いましばらく俗にしたがふもあり。本編には音訓おんくん仮名かなくださず、かなづけは所為しわざなり。
山川村庄さんせんそんしやうはさらなり、およそ物の名のよみかた清濁すみにごるによりて越後の里言りげんにたがひたるもあるべし。しかれども里言は多く俗訛ぞくなまりなり、いましばらく俗にしたがふもあり。本編には音訓おんくん仮名かなくださず、かなづけは所為しわざなり。
下手くそな仮名かな文字だが、やッとその意だけは通じている。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
はた羅甸らてん波爾杜瓦爾ほるとがるらのよこつづり青なる仮名かな
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
仮名かなちがひの多きことかな
悲しき玩具 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
仮名かなは勿論使用上、音標文字おんぺうもじの一種たるに過ぎない。しかし「か」は「加」と云ふやうに、祖先はいづれも漢字である。
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
おしい事に、雨露うろ霜雪そうせつさらされ、むしばみもあり、その額の裏に、彩色した一叢ひとむらの野菊の絵がほのかに見えて、その一本ひともとの根に(きく)という仮名かながあります。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかし如意輪堂の壁へ残して去った和歌の文字には、優しかるべきはずの仮名かななのに、何か、やるかたない思いをそこへぶつけたような筆勢と墨の気があった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
書き一方に仮名かながなければ読めないようなむずかしい文字を並べて純文学だとか美文だといっているがなるほど双方の極端を寄せてあるからアルカリ性と酸性とを
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
日本人は仮名かなという「音」を表わす便利なものを、借り物の漢字から造り出して、この言語学上、全く性質を異にしたものを混同して、意志の発表機関としている。
文明史の教訓 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
あの掻ききずと不気味な仮名かな文字とが、新しい持主の好奇心を刺戟しげきする様なことはなかったであろうか。彼は掻き傷にこもる恐しい妄執にふと心おののくことはなかったか。
お勢登場 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
わざと仮名かなを書かせて、窮屈そうに手筋を変えて書く源助の様子を観察したのでした。
それでまた珍らしくなって、いったん伏せたのをまた開けて見ると、ふと仮名かなの交らない四角な字が二行ほど並んでいた。それにはかぜ碧落へきらくいて浮雲ふうんき、つき東山とうざんのぼってぎょく一団いちだんとあった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この日、白雲は、どこかでローマ字綴りの仮名かなをつけたのを、半紙へ幾枚か墨で書いてもらって来て、それを練習している。その時分、市内をたずぬればしかるべき蘭学や、英語の塾はあるべきはず。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
さいわい箸箱はしばこの下に紙切が見着かった——それに、仮名かなでほつほつと(あんじまいぞ。)と書いてあった。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
仮名かな書きで「こばいあん」とした朱文字しゅもじ提灯ちょうちんをおいて、ゆるんだ鼻緒をすげなおしている。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのほか発句ほっくも出来るというし、千蔭流ちかげりゅうとかの仮名かなも上手だという。それも皆若槻のおかげなんだ。そういう消息を知っている僕は、君たちさえ笑止しょうしに思う以上、あきれ返らざるを得ないじゃないか?
一夕話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
上がり口を奥へ、二つ目の角を右へ切れて、突当たりを左へ曲がると東側の部屋へやだと教わったとおり歩いて行くと、はたしてあった。黒塗りの札に野々宮よし子と仮名かなで書いて、戸口に掛けてある。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
むこうて筋違すじっかいかどから二軒目に小さな柳の樹が一本、その低い枝のしなやかに垂れた葉隠はがくれに、一間口けんぐち二枚の腰障子こししょうじがあって、一枚には仮名かな、一枚には真名まなで豆腐と書いてある。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「なるほど、ばあさんの手蹟だ。児童こどもにも読めるように、仮名かなまで振ってあら」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(原文に交へたる漢文は仮名かなまじりに書き改めたり。)
八宝飯 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
やむをえず、じゃ仮名かなが好いでしょうと忠告した。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自身で仮名かな消息こまごましたためて、いましめたり、励ましたり、泣く子をあやすように督戦し、そのための評議も度々たびたびひらいて、東国の船をあつめ、兵糧をつみ込ませ、範頼の助けに送ろうと用意していた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おっかさん、と仮名かなで書かして下さる時、このえり
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
仮名かながき経典きょうてん
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)