鳥黐とりもち)” の例文
船舳に猛烈な衝動を感じたと思った瞬間、ラ・メデュウズは船底を砂岩に摩りつけながら、鳥黐とりもちのような浮洲に完全に乗りあげてしまった。
海難記 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「あのお楽ときた日には大変さ。ただもうネットリして、にかわでねって、鳥黐とりもちでこねて、味噌で味を付けたようだよ」
かれは手甲脚絆の身軽な扮装いでたちで、長い竹の継竿つぎざおを持っていたが、その竿にたくさんの鳥黐とりもちが付いているのを見て、それが鳥さしであることを半七はすぐに覚った。
半七捕物帳:15 鷹のゆくえ (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
子供をも大人をも本能的に抱き込む、鳥黐とりもちのような粘り気のある力だった。彼はほっと息をついた。
幻の彼方 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
社のある山の径三町ばかり全山樹をもって蔽われ、まことに神威灼然たりしに、例の基本財産作るとて大部分の冬青もちのき林を伐り尽させ、神池にその木を浸して鳥黐とりもちを作らしむ。
神社合祀に関する意見 (新字新仮名) / 南方熊楠(著)
モチの米という名はすでに『和名鈔わみょうしょう』にも見え、モチという言葉は鳥黐とりもちも同じに、粘ることを意味したようだが、それだからとて今と同じ餅が、古くからあったとはかぎらない。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
後世ではもっぱら雀をもって鷹の餌となし、その雀を鳥黐とりもちで差して取りますから、それで餌差えさしということになったのですが、昔は鷹の餌は普通死牛馬の肉を用いたものでありました。
「そんな鳥黐とりもち桶へ足突っこむようなこと、わしらかなわんわ。」とお霜は云った。
南北 (新字新仮名) / 横光利一(著)
逃れようとしても逃れられない、それは、鳥黐とりもちのようなねばり強さであった。
いのちの初夜 (新字新仮名) / 北条民雄(著)
ねばいねばい鳥黐とりもちの輪が、伸縮自在を暗示して、置かれてあるとみなさなければならない。お絹にもそいつは解っていた。解っているだけに身動きも出来ない。心をイラツカせるばかりである。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
鳥黐とりもちのごとし。
平仮名の説 (新字新仮名) / 清水卯三郎(著)
「あのお樂と來た日には大變さ。唯もうネツトリして、にかはでねつて、鳥黐とりもちでこねて、味噌で味を付けたやうだよ」
賽錢さいせん泥といふのは、何時の世にもあつたもので、器用なのは鳥黐とりもちで釣り、荒つぽいのは箱を打ちこはすのですが、見たところ、そんな樣子は少しもありません。
賽銭泥棒というのは、いつの世にもあったもので、器用なのは鳥黐とりもちで釣り、荒っぽいのは箱を打ちこわすのですが、見たところ、そんな様子は少しもありません。