鱗雲うろこぐも)” の例文
明るくなつた庭、縁側に腰をかけると、何處かで時島ほとゝぎすの啼くのが聞えて、今日も暑くなり相な鱗雲うろこぐもが、朝の空に黄金色に漂ふのです。
すだれ捲上まきあげし二階の窓に夕栄ゆうばえ鱗雲うろこぐも打眺め夕河岸ゆうがし小鰺こあじ売行く声聞きつけてにわか夕餉ゆうげの仕度待兼まちかぬる心地するも町中なればこそ。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
寝しなに雨戸の隙間からのぞくと灰色の鱗雲うろこぐもが空一面に瀰漫びまんして、生ぬるい風が吹いて来る。あまり面白くない天気だ。
皇海山紀行 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
空には一面に白い鱗雲うろこぐもが漂うて、淡い日があたたかく照っておりました。
(新字新仮名) / 夢野久作(著)
恐ろしいちからで虚空を押移る鱗雲うろこぐも
北斎の絵本『富嶽百景』三巻中には雲を描きしものすくなからず殊に初巻快晴の不二の図は鱗雲うろこぐもに似たるものを
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その避雷針の上を横切る鱗雲うろこぐもを凝視していたものであった。
けむりを吐かぬ煙突 (新字新仮名) / 夢野久作(著)