鯨波ときのこえ)” の例文
その沈着な容子と、朗々たる音吐おんとに、一瞬敵味方とも耳をすましたが、終ると共に、玄徳の兵が、わあっと正義のいくさたる誇りを鯨波ときのこえとしてあげた。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
思いもかけぬ画房の八方から火烟ひけむりが迫って来て、鯨波ときのこえがドッと湧き起ったので、何事かと驚いて窓から首をさし出してみると、画房の周囲は薪が山の如く
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それよりももッと不思議なは、忽然として万籟ばんらい死して鯨波ときのこえもしなければ、銃声も聞えず、音という音は皆消失せて、唯何やら前面むこうが蒼いと思たのは、大方空であったのだろう。
突如として、方二十里にわたる野や丘や水辺から、かねて曹操の配置しておいた十隊の兵が、鯨波ときのこえをあげて起った。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
馬は驚いて棹立さおだちになって、驀然まっしぐらに表門を駈け出しますと、丁度そこへ王宮から、紅木大臣を追っかけて来た兵隊が往来一パイになって押し寄せて、一度にどっ鯨波ときのこえを挙げました。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
と云ううちに、そこに落ちていた誰かの手拭を拾って姉さんかぶりにした。それから手早く前褄まえづまを取って、問題の赤ゆもじを高々とマクリ出したので、皆一斉に鯨波ときのこえを上げて喝采した。
斜坑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)