飽食ほうしょく)” の例文
今は主君と先祖の恩恵にて飽食ほうしょく暖衣だんいし、妻子におごり家人をせめつかい、栄耀えいようにくらし、槍刀はさびもぬぐわず、具足ぐそくは土用干に一度見るばかり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
しかし、仮に、老人の意見を認めるとすれば、飽食ほうしょくの、満ち足りた幸福の絶頂で、うつらうつらしているのだと、考えて考えられぬこともない。
キャラコさん:10 馬と老人 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
未来の妻は前にあり、天下の美味は飽食ほうしょくせり、この上は早く婚礼談にても持上らずやと自分の口より言出しかねて話頭の自らその事に向かん事を待っている。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
武士はいざというときには飽食ほうしょくはしない。しかしまた空腹で大切なことに取りかかることもない。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
一行六人は、毎日することもなく一室に閉じこめられ、飽食ほうしょくしていた。
東京要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
大原は聞くや聞かずや人々の談話を余所よそにして一生懸命に御馳走を飽食ほうしょくしている。当人のお登和嬢このはなしを耳にしながらわざと台所へ隠れて容易に出で来らず。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
居着の鮎とは三、四日前からその場所に住んでいて上等のアカを飽食ほうしょくしていたもの、乗込の鮎とはほかの場所から餌を捜しながら昨日きのうか今日あたり乗込んで来たものです。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ともかくも中川の同胞きょうだいを説き付けて充分に力を尽すべしとその夜はお登和嬢の手に成れる料理を飽食ほうしょくして大原を帰し、翌日主人小山が土産物の品々をたずさえて中川の家をえり。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
自分でもよく知っているが食物に向うとどうしても制する事が出来ん。腹一杯に飽食ほうしょくした後は気が重くなってしばらく茫然ぼうぜんとして脳の働らきは一時全く休止するのがよく分かるよ。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)