音無おとなし)” の例文
音に聞えた音無おとなし名残なごりを見んとて、沢井の道場を尋ねてみたが、竹刀しないの音はなくして、わらを打つ男のつちの音があった。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
音無おとなしの酒倉を襲つてやれ、太十の金庫を覆へしてやらう、奴等の財宝は悉く俺達のものも同様なのだ——私達は海よりも広い安心の夢に抜手を翻して
武者窓日記 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
しかるに、在来の社殿、音無おとなし川の小島におわせしが、去る二十二年の大水に諸神体、神宝、古文書とともにことごとく流失し、只今は従来の地と全く異なる地に立ちあり。
神社合祀に関する意見 (新字新仮名) / 南方熊楠(著)
樹々きゞに落葉のある如く、月日つきひにも落葉がある。無邊のあなたから吹いて來る音無おとなしの風は歳月の樹々を震はせて、黄ばみわなゝく月日をば順々に落してゆく。落ちてどこへ行くのだらう。
落葉 (旧字旧仮名) / レミ・ドゥ・グルモン(著)
ただ音無おとなしたきだけは本物よりもずっと大きかった。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
音無おとなしの夢のさゆらぎ。
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
「この美しさを音無おとなしの太十に見せたくない。この姿を一目でも奴が垣間見たならば、忽ち魂をとろかせて、鋭い毒爪を磨くことであらう、部屋へ入らう。」
武者窓日記 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
沢井の道場の音無おとなしの名を遠近から伝え聞いて、かなりの武者修行が押しかけて来ることは、近来になってことに多いものですから、それらが、まだいまだに
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あれ程難なく音無おとなしの輩下を手玉に取る腕があるからには、是非ともほんとうの狼を退治して溜飲をさげたいものだといふのあたりの意気に炎えてゐた。
武者窓日記 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
今、東経百三十七度十六分、北緯三十六度九分のところ、海抜五百六十三メートル八八のあたりを音無おとなしの怪物が動き出したということも、つまりは飢渇を感じ出したからです。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
仏頂寺の型が、竜之助の音無おとなしうつしにそっくり出来たものだから、音羽屋おとわや! とでも言いたくなったのでしょうが、音羽屋とも言えないから、それで単にそっくりといってみたものでしょう。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あるとも、あるとも……うわさだけで大いに覚えがあるのだ、武州沢井に机竜之助の道場があって、一種不思議な剣術をつかい、人がそれを音無おとなしと名づけるという評判を聞いていたから、一度、その門を
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)