鞘当さやあ)” の例文
旧字:鞘當
兵馬は、あまり不思議だから、非常中の非常手段ではあったが、ワザと近寄ってその武家にカチッと、自分から鞘当さやあてを試みました。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「そんな気のきいた話じゃありませんよ、いつか話したでしょう、薄墨華魁のことで鞘当さやあてをして居る、二本差りゃんこと薬種屋の若主人」
引くに引かれぬ鞘当さやあてから、日本全国を潜行する無量無辺の不正ダイナマイトを正面に廻わして、アアリャジャンジャンと斬結きりむすぶ事になった。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
曰く“心臓盗難男の恋の鞘当さやあて”曰く“奇賊烏啼も登場の今様四角恋愛合戦”また曰く“無心臓男の恋の栄冠”と。
振返ると三人がぐるっと取囲んで、「いまおれの刀へ鞘当さやあてをしたがなにか遺恨があるのか」
評釈勘忍記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
僕の叔父は十何歳かの時に年にも似合わない大小を差し、この溝の前にしゃがんだまま、長い釣竿をのばしていた。すると誰か叔父の刀にぴしりと鞘当さやあてをしかけた者があった。
本所両国 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ほん気な意地でも鞘当さやあてでもないが、ほん気にも躍起やっきにもなって困る者を困らせるのが遊びである。光広もなかなかかないし、紹由も決して退かない。そして吉野を両方の義理に挟んで
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分には、元はと言えば、そのことから、戸部近江之介と鞘当さやあてになって、こんにちこんなようなことになったほどの、伊豆屋の娘のお園、改名して園絵という、思い思われた妻があるのである。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
果して、吾妻屋永左衛門と、大井久我之助の鞘当さやあては、一応表向きは納まりましたが、二人の心持は執拗に深刻に、行くところまで行き着いてしまったのです。
僕の叔父をぢは十何歳かの時に年にも似合はない大小を差し、この溝の前にしやがんだまま、長い釣竿つりざををのばしてゐた。すると誰か叔父の刀にぴしりと鞘当さやあてをしかけた者があつた。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
逃げた顛末てんまつは、私がよく存じておりますが、女同士の鞘当さやあてというところがおかしいんで、両方でイガミ合っているうちに、肝腎の当人が、行方知れずになってしまったんでございますよ。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
播磨 や、それがいわゆる鞘当さやあて。
稲生播磨守 (新字新仮名) / 林不忘(著)
或いはもう一人のお妾のためにちょうを奪われたその恨みだとも言い、またはこのお妾に別に情夫があって、それとまた他の女との鞘当さやあての恨みだとも言い、揣摩臆測しまおくそくはしきりでしたけれども
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
おたがいたちのうちに鞘当さやあても起らないし、お代官そのものもいっこう悪い顔をしないのは、お人好しで全く気がつかないのか、或いは自分が相当の食わせ者であるだけに、気がついても
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
何が来たのだかわからないが、三人はそれを避けて通すと、すれすれに通行したが、鞘当さやあてを演ずることもなく、しばらくすると、これも前の軽格と同様、音も姿も夜霧の中に消えてしまいます。