ぜろ)” の例文
細君といふのは三十五六歳の顏容子かほかたちも先づ人並の方であらうが、至つて表情に乏しい、乏しいといふより殆んどぜろに近いほど虚心うつかりした風をして居るのである。
一家 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
少しばかりの野菜は、懇意な農家に頼んで居ます。金になると云う上からは、恒春園はぜろです。毎年堆肥たいひ温床用おんしょうようの落葉を四円に売ります。四千坪の年収が金四円です。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ああ、金言にもあるごとく、坐して喰えば、山のごとき紙幣の束も、いつかはぜろとなるであろう。
面白い事と、悲しい事と、差引勘定ぜろ。此点に於て、何も思はん事となるのさ。一と二と三と加へて、一と二と三と引けば、差引勘定零。此処に於て、何も無い事となるのさ。
俺の記 (新字旧仮名) / 尾崎放哉(著)
出来れば差引勘定ぜろにしておかうといふ、甚だ水臭い了簡だと云へないこともない
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
注射をすると折角出てゐる菌を又候またぞろ骨の中へ追ひ込んでしまふに過ぎんといふことを誰も気づかないんだ、結節を除くには注射などぜろだ、たはしでこするのが一番良い、こすり取つてしまふのだ
間木老人 (新字旧仮名) / 北条民雄(著)
みそ汁にしろ、沢庵にしろ、味という点から味わう時にそれはぜろであった。けれども、これがセーラーたちにはこの上もなくうまかった。彼らはよくそれほど多量に食べると思うほどむさぼり食った。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)