雲母うんも)” の例文
それを遠くから眺めると、秋の白い光を受けてそれが雲母うんものように光った。銀色に、淡紅色に、薄紫色にいろいろになって波うった。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
天の空間は私の感覚かんかくのすぐとなりにるらしい。みちをあるいて黄金いろの雲母うんものかけらがだんだんたくさん出て来ればだんだん花崗岩かこうがんに近づいたなと思うのだ。
インドラの網 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
時々ホテル、お寺という想念が雲母うんもの如くぎらぎらと光を帯びて正面に塞がるけれど、立ち所に又激しい砂風におおいまくられてしまう。何だか薄寒い日である。
天馬 (新字新仮名) / 金史良(著)
斜めに日光にすかして見ると、雲母うんもの小片が銀色のうろこのようにきらきら光っていた。
浅草紙 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
表面にけずり出しのような軽くく紅いろの薄雲が一面に散っていて、空の肌質がすっかり刀色に冴えかえる時分を合図のようにして、それ等の雲はかえって雲母うんも色に冴えかえって来た。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
雲母うんもの膜をがすように、風景の遠い部分から順々に千切れて見えなくなる。……
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
路の傍に、彼の立つて居る足の下に、あの道に沿うたみぞである細い水が、月の光を砕きながら流れて居た。それは大きな雲母うんもの板か何かのやうに黒く、さうして光つて、音を立ててふるへて居た。