闇暗くらやみ)” の例文
私はそう思い思い何秒か……もしくは何分間か、眼の前の闇暗くらやみの核心をジーッと凝視していた。凝視していた……。
ビルディング (新字新仮名) / 夢野久作(著)
いや、その姿が真の闇暗くらやみの隧道の天井を貫くばかり、行違ゆきちがった時、すっくりと大きくなって、目前を通る、白い跣足はだしが宿の池にありましょう、小さな船。
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なおの事夢らしくよそおっている肌寒はださむ夜寒よさむ闇暗くらやみ、——すべて朦朧もうろうたる事実から受けるこの感じは、自分がここまで運んで来た宿命の象徴じゃないだろうか。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
牡丹に立った白鷺になるよりも、人間は娑婆しゃばが恋しかんべいに、産で死んで、姑獲鳥うぶめになるわ。びしょびしょぶり闇暗くらやみに、若い女が青ざめて、腰の下さ血だらけで、あのこわれ屋の軒の上へ。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかし私は闇暗くらやみの中で半身を起したまま躊躇ちゅうちょした。
ビルディング (新字新仮名) / 夢野久作(著)