銀屏ぎんびょう)” の例文
線香のにおいは藤尾の部屋から、思い出したように吹いてくる。燃え切った灰は、棒のままで、はたりはたりと香炉の中に倒れつつある。銀屏ぎんびょうは知らぬくゆる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
声に気がつくと、あたりは銀屏ぎんびょうえより明るい朝になっていて、登子が両手をつかえていた。もし瞼のれさえなければ花嫁の朝ともみえる朝化粧の襟が白かった。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蚊屋しまふ夜や銀屏ぎんびょうのさびのよき 酔竹
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
銀屏ぎんびょうにけふはも心さだまりぬ
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
隣室の線香が絶えんとする時、小野さんは蒼白あおじろい額を抑えて来た。藍色あいいろの煙は再び銀屏ぎんびょうかすめて立ちのぼった。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さかに立てたのは二枚折の銀屏ぎんびょうである。一面にえ返る月の色のほう六尺のなかに、会釈えしゃくもなく緑青ろくしょうを使って、柔婉なよやかなる茎を乱るるばかりにいた。不規則にぎざぎざを畳む鋸葉のこぎりはを描いた。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)