金聾かなつんぼ)” の例文
五尺七八寸もあらうかと思はれる大男で、眼の大きい、口もとのよく締らない樣な、見るからに好人物で、遠いといふより全くの金聾かなつんぼであるほど耳が遠い。
山寺 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
しかし爺さんは金聾かなつんぼだったので何も聞えなかった。ただ長年の経験で、子供一人でもうしろの板にのるとそれがすぐ体に重く感ぜられるのでわかったのであった。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
と書き残してゐるので、それが鉄斎老人の耳に入ると、(老人は名代の金聾かなつんぼだが、耳で聞えぬ事は目で読む事が出来る)いつもの癖で何とかして自分の手に入れたくなつて来た。
「又六の所へは時々若い女も來るらしいが、叔母さんといふのは金聾かなつんぼだから、又六の内證事ないしよごとなんか判りやしません。暮し向は良い方で金もうんと持つてゐるさうです。家の中には紅も白粉もありましたよ。——この通り」
馬車が前を通るとき馭者台ぎょしゃだいの上を見ると、木之助は、おやと意外に感じた。そこに乗っているのは長年見馴みなれたあの金聾かなつんぼじいさんではなく、頭を時分ときわけにした若い男であった。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)