野狐やこ)” の例文
私は彼女と別れて放浪中、偶然、古本屋で買った、「無門関」を愛誦あいしょうしていた。その中でも、「百丈野狐やこ」という公案が好きだった。
野狐 (新字新仮名) / 田中英光(著)
また鹿児島にては、夜中河童の鳴き声を聞くと申しておる。あるいはこれを野狐やこの声ともいうが、水上における千鳥の声らしい。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
何事も芸道に志したからは、わかつた上にもわからうとする心がけが肝腎かんじんなやうだ。さもないと野狐やこに堕してしまふ。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
この鏡を相手ならこんと鳴真似して女の質の中なる野狐やこの性を出しさえしたらわれとわれをたぶらかすことくらいは、そんなに難しい仕事ではございません。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「——それっ」と手を振るやいな、彼自身は、後ろの灌木かんぼくの茂みへ、野狐やこのごとく、がさッと一瞬に影を隠した。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼ら三人は暗夜の中に各自それぞれ光をまといながらへんぽんとして舞い踊るうち、彼らの衣裳はことごとく落ちて、ただ見る三匹の仔牛こうしほどの野狐やこが、後脚二本で土に立ち、前脚二本で拍子を取り
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかるときは、かの女に憑付せりという狐は野狐やこの類にあらずして、おそらく、わがまま狐ともいうべき一種の狐ならん。
その微細なものまでが、感情と意志の喰い違いを現す不自然さに苦痛を快楽として諦め返そうとする野狐やこ的な知性がうかががれると、それはみだらがましいものにさえ感じさせます。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
野狐やこ風流五百生、私は転々悶々もんもんとして、永遠に野狐であるらしい。
野狐 (新字新仮名) / 田中英光(著)
... その要は人々をして善を修め、悪をとどめしむるに至るのみ。下愚庸昧げぐようまいなるものは、この意を悟らず、恐懼きょうく疑惑して、ついにおもえらく、実に三世ありとす。これ必ず野狐やこのみ)(『神社考じんじゃこう』)
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)